70 きみを守るよ
マリーが眉を上げて拳を構える。言うことは幼いわりに、目つきは戦士みたいだ。人型戦車がいつ銃を撃ってきてもいいように気を張り巡らせている。
イワサキは──マリーの言葉に、首を傾げていた。
「……苦しむひとを救うことが、なぜイイコト……善行ではないのでしょう?」
「相手が助けてほしいかどうか、わからないからです」
「マリーさまは先ほど、そこの悪魔を助けましたね。彼は『助けて』などと言っていましたか?」
「言ってません」
「では、マリーさまもわたしと同じなのではありませんか? 相手の気持ちを確認せずに助力し、施す。わたしは、善行だと思います」
「ちょっと違いますね」
マリーは堂々と、不敵に、笑みを浮かべて言い切った。
「リリムがどう思うかなんて知ったことじゃありません。私は、リリムが死んだり傷ついたら悲しいです。私が悲しいんです。だから私は、私の判断と責任で、リリムのことを助けるんです。リリムに嫌がられても、怒られても関係ありません。私が助けたいから助けるんです!」
──ああ、そうだ。
この子、出会った時からこういう子だったよなぁ。
自分の意思と決意だけで動く、おてんばで妖精のような女の子。頑固でわがままで、とっても人間らしい、自分の相棒。
「……マリー。ちなみに、さっきは助けられてすごく助かったから。ありがとうね」
「もちろん、そうでしょうとも! 私はリリムのことならだいたいのことはわかりますからね」
あの小さな花の妖精さんが、ずいぶんいい相棒になったな。
胸が無性に熱くなって、心拍が上がるのを感じる。これだけ魔術と体を酷使していたら、こんな風になるだろう。別におかしなことではない。
「……マリーさまのお話、大変勉強になりました」
「は? 別にそんなつもりでしゃべってたわけじゃ……」
「──なら、わたしもわたしの判断と責任で、神の子の再来を望みます。そして、わたしの願いによって、人類には救われていただきます」
イワサキがスマートフォンでなにかを操作する。人型戦車が機関銃をリリムに向けた。
「マリーさま、説得はここまでです。──要求を受け入れてくださらないのであれば、このまま淫魔リリムを撃ち殺します」
そうくるか。イワサキの冷たい視線と戦車の赤いカメラがリリムを射抜く。背筋に冷たい汗が流れた。
その射線に、マリーが両手を広げて割って入る。
「ダメです! リリムを殺すなら、私を倒してからにしてください!」
「危ないですよ、マリーさま」
イワサキの声と同時に、人型戦車のアーム部分からアサルトライフルの銃口が飛び出て、マリーの頬に銃弾がかすめた。マリーの黒髪が、幾筋か弾けてはらはらと地面に落ちる。
「へ……?」
「あら、自分は攻撃されないと思っていましたか? ──手足がもげても、子宮さえ無事なら子は成せるんですよ。イザベラから教わりませんでしたか?」
冷酷な声と内容に、かっと血が上る。
吹っ切れすぎだろこのババア!
「マリー、どいて! コイツ本気だよ!」
「だ、ダメです! り、リリムは、よわっちいから私が守ってあげるんです……!」
「今そういうのいいから!」
「……マリーさまがなさりたいことを、自分の責任でなさるのです。わたしも、己の責任において、己の使命を全うします」
とっさに防御のルーン文字を地面に刻む。それでも、機関銃やライフルから身を守れる保証はない。マリーの体が震えている。当たり前だ。
「り、リリム……ぜ、絶対絶対! 私が守りますから……!」
声が恐怖にかすれていた。それでも、マリーは相手から目をそらさなかった。逃げ出そうともしていない。本気で、この子は「よわっちぃリリム」を身を挺して守ろうとしている。
リリムは、迷わずマリーの体を抱きしめて背で庇った。
「ホントに、マリーってば僕のコト好き過ぎでしょ!」
「バカリリム! 私は殺されることはないんですよ! それに、私が傷つけばアイツの運がリリムに行きます!」
「そんなのよりマリーが大事に決まってるでしょ!」
「リリムだって私のコト大好きじゃないですかバカー!」
「──二人とも、意識が残る程度に加減してあげますよ」
イワサキの冷たい声とともに、照準が合わせられる。
その時。
「だ、ダメだ、イワサキ!」
割って入った声は、ダニエルのものだった。
「……なんのつもりですか、ダニエル」
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