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【完結】淫魔リリムと悪魔祓いマリーは、善悪の境界線でステップを踊る。  作者: 芝村あおい
第三章 リヨン・ふたりの勉強と修業編

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53 ふたりの“いつも通り”


「え、どういうこと?」

「お前、出先でもマリーと昨日みたいに四六時中いちゃついてたんだろ?」

「いちゃついてないってば」

「自覚もないんだな。なら、マリア・イワサキがその様子を見て、思ったんじゃないか? 『このままだと母体候補が自然な形で悪魔と性交してしまう』ってな」


 ──あの時。イスラエルの『岩のドーム』前で、自分たちはどうしていたっけ。

 マリーと手をつないで、イスラム教の説明を聞いていた。二人並んで歩いて青いタイルの美しさに目を奪われていた。青いタイルを見てはしゃぐマリーはとてもかわいかった。

 あれが? あれだけでダメ? 誤解もいいところだ!


「その顔は、心当たりがあるんだな」

「ないよ! 本当にいつも通りだったよ!」

「じゃあ、その”いつも通り”を振り返っておけ。それは大抵、恋人同士にしかしない

 ……とにかく。もしそうなら、マリーも危険だが、お前だって危険だぞ」

「え?」

「平たく言うと、今のお前たちの状況は『彼女の実家の親族が交際に大反対していて、どんな手を使ってでも別れさせようとしている』みたいな感じだ」

「ええー?」


 酷い。付き合ってもいないのに、そんな理由で命を狙われるのか?

 いや、相手はそもそも、倫理観が欠けてはいるがかろうじて聖職者だ。マリーに非人道的なことをするより、リリムを消滅させた方が良心は痛まない。


「大丈夫ですよ、リリム!」


 ばたん、と騒々しい音を立てながらリビングに高い声が響いた。

 マリーだ。青いシャツに白いショートパンツを身に付けている。マリーのすんなりと伸びた白い足がぴかりとかがやいていた。


「よわっちいリリムは、私が守ってあげますからね!」

「昨日マリーは僕に負けたでしょ」

「相手が悪魔祓いなら、私にだって勝機はあります! 主に物理方面では負けません!」

「マリーはまだまだ鍛錬が必要です。あんまりカンタンにそういうことを言ってはダメですよ」


 後ろから入ってきたマリエッタがマリーをたしなめる。マリエッタは白いトレーナーにジーンズのパンツを履いていた。どちらも軽く散歩をしてきた、といった出で立ちである。


「お帰り、ふたりとも。地下神殿はどうだった?」

「あんなところがあるなんて知りませんでした。とても便利ですね。これからもわたし、使っていいでしょうか?」

「うーん、もうマリエッタは機関の関係者じゃないからダメかも……」

「そうですか……残念です……」


 ファウヌスはマリエッタとマリーにもオレンジジュースを出して、ふたりともダイニングテーブルに座った。四人がけのテーブルは満席だ。

 マリエッタはリリムの顔を覗き込みながら、愛情深いまなざしを向けてくる。


「リリムくんは十分強いとファウヌスから聞いています。でも、無茶はしないでくださいね。『グノーシス調査機関』は神秘調査を主とした、悪魔祓いが本職の人間ばかりです。悪魔である貴方にとっては相性が悪いと思います。遠慮なく、わたしやファウヌスを頼ってくださいね」


 マリエッタの優しい笑みは、本当に聖母みたいだ。リリムには少し居心地が悪い。マリーの方が、僕は好きだ。


「うん……義姉ちゃん、ありがとう」

「私も頼っていいんですよ!」

「マリーは一緒に狙われてる側でしょ」

「リリムの方が命の危険があります。私、リリムがいなくなったら嫌ですから」


 マリーが、真剣な瞳でリリムを見つめる。

 夜の瞳が朝陽にきらめいて、妖精みたいだな、と何度目かの感想を抱いた。胸がとくん、と大きく跳ねる。


「……マリーは、僕がいなくなったら嫌?」

「はい! 嫌です。さみしいです」


 マリーの素直な好意が、じんわりと全身に広がる。胸の奥がきゅっと引き絞られる感覚がした。


「……リリム?」

「んンッ! ……そっか。じゃあ、僕も自分のことは大事にしないとね。マリーが泣いちゃったら嫌だし」

「はい。そうしてください。あ、そうだ。リリムご飯食べたら、精気を分けてあげますね」

「えっ」

「? なんですか。いつものですよ。額へのちゅー」


 毎食後、マリーからはキスで精気をもらう。汗を舐めるだけで、マリーにとっても負担はない量だ。もう習慣になっていて、今まで意識したことなんてなかった。

 ただ、ちょっと今のリリムはおかしくなっていた。


 マリーと、キス、するのか。

 それで、精気を、もらうのか。


「えっ、リリム、顔真っ赤ですよ?! どうしたんですか!」

「リリムくん、風邪ですか? えっ、悪魔って風邪引くんですか?」

「引かないよ。……ふたりとも、落ち着いて。リリム、ちょっとむせちゃったか? おしゃべりはそれくらいにして、ご飯食べて。カフェも入れてやるから」

「…………うん」


 事情を察しているファウヌスがてきとうに誤魔化してくれた。リリムは顔の熱が覚めるまで、もそもそとゆっくりタルティーヌを咀嚼する。


 ──僕、どうしちゃったんだろう。


 急に、マリーとキスするの、ドキドキしてきた。




 移動は午後からなので、午前中は必要なものを買い出しに街へ出かけることになった。

 マリーと手をつないで、リヨンの街を歩く。石畳の道は歩きづらいけれど、雰囲気があってリリムは好きだった。きっとマリーも好きだと思う。

 隣のマリーが、心配そうにリリムの顔を覗き込んできた。


「リリム。精気ホントにいらないんですか? 倒れたりしません?」

「だ、大丈夫だよ。リヨンのご飯はおいしいからね。それに、マリーとは昨日一緒に寝たから、それでも少し精気をもらえたし」

「そうですか? 必要になったら言ってくださいね。お腹減ったら悲しい気分になりますから」


 マリーは、修道院に来たばかりで空腹のリリムに襲われたことを『腹ペコリリムがかわいそうな思いをした事件』として記憶しているらしい。以来リリムが精気不足にならないように気を遣ってくれていた。主にちゅーしろと迫ってくる。今まではかわいいなと思うだけだったのに、なぜか今日は緊張して、恥ずかしくなってしまった。特にファウヌスとマリエッタの目があるところではしたくない。朝はいたたまれずに遠慮することにした。


「……その。夜に二人きりの時にもらうよ」

「わかりました。いいですよ。今日も一緒に寝ましょうか」

「う、うん……」

「んふふー。リリムと一緒に寝ると、よく眠れるんですよね。知らない場所ならリリムと一緒に寝るに限ります!」

「そ、そう……」 


 一緒に。ベッドで。


 いや。なにを思春期の少年みたいな意識の仕方をしているんだ。リリムに思春期はなかった。生まれてからずっと成人だし、生きていくために誕生3日目でセックスを経験している。これまで数多の女性と一夜をともにし、時には愛した女性の最期を見送った。酸いも甘いも噛み分けた色男だという自負がある。マリーみたいなちんちくりんの子どもと一緒に眠ることに、なにを緊張することがあるのか。大体、マリーと一緒に寝るのなんて珍しくもない。


 だから僕の心臓、別にそんなに激しく動かなくてもいいんじゃない⁈



メロ付いているちょろ淫魔。

ーーー

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