50 僕のことが好きなんだ
少しだけセクシーな表現があります。
──お友だちと恋人は両立しないんですか……?
マリーの昼間の問いは、おそらく、多分、きっと、自分への好意からの質問だ。それがわからないほど野暮でもボケでもない。こちらは二千年淫魔をやっている男女関係のプロフェッショナルなのだ。
それでも、幼いころからずっと一緒にいたので、いつも言われる「大好き」はてっきり友だちとしての「大好き」なのだと思っていた。
そうか。マリーは違ったのか。
そりゃ、僕はカッコいいし、やさしいし、物知りだし、マリーを可愛がっているから、初恋の相手になっても全然おかしくないよな。
そうか、そうか。マリーが。僕のこと。
「……リリム? なんか昼間から様子が変ですよ? どうかしたんですか?」
夜。ファウヌスの家で食事を終えてお風呂に入ったマリーは、綿のパジャマを身に着けてリビングに戻ってきた。
湯上がりのマリーの肌はうっすらと赤みが差して、つやつやして見える。
「どうもしないよ。ほら、こっちにおいで。髪乾かしてあげる」
「はい」
リビングの3人掛けソファに座って、そこにドライヤーを持って来てマリーの濡れた長い髪にあてていく。深い黒は日本人にしかない髪色で、とてもきれいだ。
僕のこと大好きなのは知ってたけれど、そういう意味でも好きだとわかると、やっぱり特別かわいく見えるなぁ。
自分には全く、これっぽっちも、一切そんな気はないけれど、マリーに男として慕われていると思うと胸が弾む。ここ数年感じていなかった、男として愛されることへの胸の高鳴りを感じた。
「……ファウヌス。リリムくん、相当浮かれてませんか……?」
「うん……ちょっと珍しいくらい……でも、大丈夫だと思うよ。リリムは分別のつく悪魔だから……多分……」
「なんで最後ちょっと自信なさげなんですか」
「こんなに浮かれてるリリム、見たことないからさ……リリム」
ファウヌスに呼ばれて顔を上げると、ダイニングテーブルから義姉とふたりでこちらを見ていた。
「今日はマリーと一緒に寝るのか?」
「昨日はそう言ってたけど……」
ドライヤーを止めてマリーを見る。
マリーは移り気な女の子だ。気分が変わってしまうこともある。
「マリー、今日は僕と一緒に寝るの? それともやっぱり義姉ちゃんと寝る?」
「リリムと一緒がいいです!」
どうやら今夜は予定に変更がないようだ。
リリムはファウヌスに視線を戻して、
「だって。僕、義姉ちゃんのベッドで寝ても大丈夫? それとも逆がいい?」
「……もちろん、わたしのベッドを使ってくれていいですけれど……本当に大丈夫ですよね?」
「なにが?」
「マリーにヘンなコト」
「するわけないでしょ!」
昼間からマリエッタが妙にこちらを牽制してくる。いくら妹がかわいいとは言え、失礼だな。
リリムは紳士だ。こんな子どもに手を出すような男でも淫魔でもない。
「おねえさま。リリムはそういう心配しないでも大丈夫ですよ」
意外にも、マリーがマリエッタをたしなめた。姉全肯定シスコン娘が珍しいものだ。
……というか、マリエッタがなにを心配しているのか、マリーはちゃんと理解できているのか? それはまあ、もう15歳なら一般的な性知識はあると思うけれど。
「リリムは枯れ専なんです。私みたいなのはもちろん、おねえさまだって性対象じゃないですよ」
「あ、そうなんですか?」
「枯れ専じゃない! 熟女が好きなだけ!」
「なにか違うんですか?」
「全然違うよ。イザベラさまは枯れてない!」
「ああ、そういう」
「ああ、そういう」
マリーもマリエッタも、リリムの意見を飲み込んだ。ただファウヌスだけが、相変わらずじっとりとした視線を向けてくる。
「……はい、マリー。終わりだよ。先に義姉ちゃんの部屋に行ってて。僕もお風呂入ってくるから」
「はーい」
マリーが素直にマリエッタの部屋に向かうのを見て、さっとシャワーを浴びてきてしまおうと着替えをファウヌスの部屋から漁る。今は子どもの体でファウヌスの衣類は大きいけれど、この家には多少リリムのものも置いてあった。
ファウヌスのクローゼットから着替えを取り出すと、そっとファウヌスが背後に立つ気配がする。耳元で甘い低音が、小さく忠告してくる。
「……本当に、マリーのこと大丈夫だよな?」
「大丈夫に決まってるでしょ。僕は子どもに興味ない。じいちゃんだって『子どもは守るもの』っていつも言ってるだろ」
「そうだけど……でもリリムはマリーが好きだろ?」
「好きだよ。でもそういう意味じゃない。僕のは純粋な友情!」
……まあ、マリーの方は違うのかもしれないけれど。
だからって、マリーの気持ちを利用していかがわしいコトで精気をもらおうなんてこれっぽちも思っていない。そこまで低俗な淫魔ではない。
それはファウヌスだってわかっているはずなのに、ずっと表情は晴れなかった。
「……やっぱり、俺の教育が悪かったのかな……」
「なんの話?」
「いや、それはいい。じゃあ、これから本題だ。……今晩、マリーはお前にまかせても大丈夫なんだな?」
「もちろん。それに、マリーはいい子だからもう眠くなる時間だよ」
「そうか。昨日みたいにお腹が空いて部屋から出てくることは?」
「今日はちゃんと食べたし、大丈夫だと思うけど」
「そうか。なら、任せたぞ。絶対マリーを部屋から出すな」
そう言われて、ぴんときた。
思わずファウヌスの赤い瞳をにらみ付けてしまう。
「……もしかして、義姉ちゃんといちゃいちゃするつもり……?」
「だって俺たち新婚だぞ。一緒のベッドで眠ったらしたいコトだってある」
「マリーがいるのにサイテー。っていうか、結婚して5年も経って新婚って言う?」
「一週間やそこらならもちろん我慢するけど、今回はいつまでになるかわからないだろ? 絶対マリーにバレないようにするから、お前も協力してくれ」
「ええー……」
そりゃあ、ファウヌスとマリエッタは夫婦だし、そういうコトをして当たり前だ。
ましてファウヌスは淫魔で、いくら食事で精気を賄える仙人みたいな悪魔でも、近くにちゃんとした食事ができるアテがあればそれを摂取したいだろう。
というか、多分単純にマリエッタといちゃつきたいのだ。
「……わかったよ。絶対ヘンな声とか物音とか出さないでよ」
ファウヌスはとたんにうれしそうな笑みになって、リリムの頭をなでてきた。
「ありがとう、助かる。リリムとマリーが昼間ずっといちゃついてたから、俺もマリエッタといちゃつきたくなっちゃってな」
「僕たちはそんないかがわしいいちゃつき方してなかったよ」
「どうかな。お前、マリーが特別かわいく見えるってコトを、もうちょっと真面目に考えた方が良い」
「マリーは誰が見ても特別かわいいでしょ。なに言ってるの」
「うーん。そうか」
クソボケチョロ淫。
ーーー
面白いな、かわいいなと思われたら評価・ブックマークで応援よろしくお願いします!




