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【完結】淫魔リリムと悪魔祓いマリーは、善悪の境界線でステップを踊る。  作者: 芝村あおい
第三章 リヨン・ふたりの勉強と修業編

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48 淫魔リリムの実力


 マリーが一歩踏み込んだ。

 マリーの初速は速い。体重が軽いからだろう。踏み込んだ瞬間、突然目の前に現れたような気がする。

 けれど悪癖があった。体重が軽い分、そのまま拳を振るっても大した打撃にはならないのだ。だからマリーは直前でもう一歩踏み込む。

 それだって速いけれど、リリムはずっとマリーと一緒に過ごしてきた。タイミングは目をつむっていてもわかる。

 マリーが二歩目を踏み込むのと同時に、リリムは小石を足元に投げた。


「ansuz」


 リリムが指向性を与えた魔力が、地下神殿の地面に音もなく穴を開けた。踏み込んだはずの地面が消失して、マリーがすっぽりと穴に落ちる。


「ふぎゃっ」


 マリーの間抜けな声が穴から響いて聞こえた。なんとか着地はしたようだが、穴はマリーが手を伸ばしても、ぎりぎり届かない程度の高さにした。地上から穴を覗き込む。


「あは。マリー、戦闘で魔術にハマった感想はどう?」

「卑怯です! これ全然勝負じゃなくないですか?!」

「勝負だよ。それで、僕の勝ちだ」

「まだ負けてません!」

「どうかな」


 マリーは穴から跳び上がろうと膝に力を貯めた。

 そうはいかないんだな。


「『主なる神は、地の塵で人を形造り、その鼻に生命の息を吹き込まれた』」


 小さく言祝ぎの言葉を唱えて、地面に触れる。そこからさらに穴が広がって、穴の中に、ちいさな兎さんがぽこぽこと飛び込んでいく。兎、を模った、泥人形だ。


泥人形(ゴーレム)?!」


 マリーは悲鳴を上げながら、穴の中に飛び込んでくる兎さんをつかんで穴から追い出そうとする。ただ、それよりゴーレムが生まれるほうが早い。

 あっという間に、穴は兎さんのゴーレムで埋まってしまった。

 マリーの首から下が埋まったあたりでゴーレムをつくるのを止める。


「ふふーん。どう? ちゃんと負けたって言わないと、穴から出してあげないよ」

「うっ、卑怯ですよ! うさちゃんみたいなかわいい動物を使うなんて! もっと熊さんみたいに殴っても罪悪感わかない動物にしてください!」

「わかっててやってるに決まってるでしょ。勝負だよ? 僕はこれを猫ちゃんでも犬さんでも、人間でもできる。もっと精巧な、本物にしか見えないゴーレムだって、やる気と時間があればつくれる。そういうのに襲われた時、マリーはどうする? すぐに殴れないでしょ」

「そ、それは……」

「マリー、泥人形の壊し方は昔教えてあげたでしょ。覚えてない?」

「……ゴーレムの体には、必ず『emeth』の文字が刻まれているから、『e』を消して『meth』にすれば、土に還る……」

「やってごらん」


 マリーは一生懸命両手を出して、頭の上に乗っかっていた兎さんを一羽捕獲する。お腹や背中をなで回して、最後に耳の後ろを確認した。


「あった……」


 長い耳の後ろに刻まれた『emeth』の文字を消して、『meth』に書き換える。

 兎さんはマリーの手のひらの上で、さらりと土へ還った。


「うん。よくできました」

「……もしかして、この量全部、消さないとダメですか……?」


 マリーのハマった穴にみちみちに詰まった兎さんたちは、何十羽か、百を越えるか。本当に生きている兎さんが同じことをすると下の方の兎さんは潰れてしまうので、絶対におすすめできない遊び方だ。


「今日は授業だから、サービスしてあげる」


 ぱちん、とリリムが指先を鳴らすだけで、兎さんたちは一瞬で土へ還った。


「もうひとつゴーレムを止める方法を教えてあげる。ゴーレムは術者の魔力を動力にしているから、術者を倒せば土に還る」

「……なんだ。やっぱりリリムを殴ったらよかったんですね」

「できなかったでしょ?」


 マリーが穴の中からにらみ付けてくる。笑って受け流して、穴の中に手を差し伸べた。マリーを引っ張り上げてから、開けた穴を元に戻しておく。

 離れたところからじっと見ていたファウヌスが、両手を叩いてこちらに近付いてきた。


「リリムは相変わらず魔術の扱いがうまいな」

「ありがと。最近はあんまり使ってなかったから、もっと錆びついてるかと思ってたよ。……まあ、マリーには十分だったね」


 そう言ったら、マリーの夜の瞳がきっと釣り上がった。けれど、文句は言わずに質問をしてくる。


「……最初の穴は、ルーン魔術ですか?」

「そう。ちゃんとわかったね」


 ansuz<アンサズ>──神、賢明さ、メッセージ、知識の習得、真実、理性、言葉、口、穴──いくつかの意味が込められた古代文字を、リリムの魔力で指向性を定める。ルーン魔術は発動が短く、条件も複雑ではないから、戦闘には使いやすい。ただし、複数の意味があるため扱いが難しかった。リリムも習得には時間をかけた。

 今回はそこらへんの小石にアンサズの文字を刻んで、マリーに足元へ放り込んだだけである。


「……リリムがルーン魔術を扱うなんて、はじめて知りました」

「そうだっけ?」

「魔術に詳しいとは聞いてましたけど、ほかにはどんな魔術が扱えるんですか?」

「全部だよ」


 マリーが息を詰めた気配がする。夜の瞳がまんまるに見開かれた。マリーは驚いた顔もかわいい。


「僕は地上すべての魔術を扱える。得手不得手はあるけれどね」


意外とへちょくはないリリムでした。

ーーー

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