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【完結】淫魔リリムと悪魔祓いマリーは、善悪の境界線でステップを踊る。  作者: 芝村あおい
第二章 エルサレム・はじめての悪魔祓い編

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23/77

23 はじめての調査

 

 サン・ロレンソ・デ・エル・エスコリアルの町は、秋から冬へと移り変わろうする時期だ。

 観光客は落ち着いてきていて、いつも賑やかな修道院にも静かな時間がゆっくりと流れている。赤茶けた色に変わりつつある木々を眺めながら、石造りの修道院内をリリムと並んで歩いた。


 リリムはマリーとおそろいの白シャツと黒いブレザー、黒いスラックスに質素な革靴を身に付けていた。それでも頭が小さくて足が長いものだから、若いシスター見習いたちは見かける度にきゃあきゃあと黄色い声を上げている。

 いい気になるなよ、この淫魔。

 思わずじっとりとした視線を向けると、リリムがこちらを見てにやりと笑った。


「なに、妬きもち?」

「なんでそうなるんですか」

「僕がほかの女性に近付くと、いっつも不機嫌そうだから」

「リリムが宣誓を破らないか見張っているだけです。破ったら修道院から追い出すんですからね」

「はいはい」


 リリムは笑うばかりだ。子ども扱いされているようで、やっぱり腹が立つ。

 というか──


 どうして、リリムは修道院から出ていかないのだろう。

 もうすっかり、精気不足は回復しているはずなのに。



 

 『孤児院』に帰って、リリムが暖房を付けてお湯を沸かす。マリーはソファに座って、スマートフォンからメールを確認した。件名はこうだ。


『Feliz cumpleaños. Este es un regalo de cumpleaños de nuestra parte.』

(誕生日おめでとう。私たちからプレゼントを贈ります)


「任務がプレゼントとか、機関は贈り物のセンスがないな」

「任務内容も書いてありますね。

 『とある少年が悪魔憑きと思われる奇行を繰り返している。調査し、悪魔の場合はこれを消滅させよ』」

「よくある話だな」

「そうなんですか? どんな悪魔?」

「よくある話だけど、本当に悪魔の仕業かはわからない。人間は自分たちに都合の悪いことが起こるとすぐ悪魔のせいにするから」


 リリムはあっさりそう言って、マリーの前にお茶を差し出す。

 修道院の庭園で育てたローズマリーとミントを乾燥させたハーブティーだ。舌の肥えたリリムも気に入っている、修道院でまっとうな味のするもののひとつである。

 温かなお茶を口に含んで、ほっと息を吐き出した。


「ねえ、リリム? お茶だけじゃなく、甘い物もほしくないですか?」


 甘えた声でおねだりしてみた。

 リリムは軽く息を吐き出して、マリーに顔を寄せてくる。それから、額にそっと口付けていった。リリムの小さな吐息がかかって、柔らかい唇が前髪の付け根をわずかに舐めていく。

 すぐに離れると、リリムは目の前でにやりと口角を上げた。


「僕はこれだけでいいけど?」

「それじゃ私のお茶請けがないじゃないですか! まだいっぱいありますよね? 出してください!」

「悪魔をカツアゲしないでよ……」


 そう言いながらも、精気を吸った礼のつもりか、戸棚からショコラを持ってきてくれた。

 誕生日のプレゼントに、と姉とファウヌスから贈られてきたものだ。戸棚がいーっぱいになるほどの割れチョコと、ボンボンショコラ。そしていくらかの私服。姉からは心のこもったカードと花も添えられていた。

 ただし、食べすぎてはダメだとも書かれていて、イザベラからはリリムが管理するようにと言われている。


「なんで私へのプレゼントをリリムが管理することになるんでしょう?」

「こと食事についてはマリーより僕の方が信用があるってことだね」


 なにを言うのか。こんな清廉潔白な美少女シスター見習いより淫魔の方が信用があるわけない。

 ただ、リリムとはもう5年の付き合いになる。なんだかんだ言ってリリムはマリーの好みはもちろん体調なども把握しているので、マリー自身もリリムの言うことは聞いておこうかな、と思うほど。

 今日もリリムは小皿に割れチョコを盛ってくれた。ボンボンショコラは夕食後にひと粒だけ、となぜか決まっている。


「んふふ、リリム大好き♡」

「安っぽい愛の言葉だなあ……おいしい?」

「はい! リリムも一緒にどうぞ」

「僕が用意したのに……まあいいや。ありがと、マリー」


 マリーは小皿のショコラをつまみながら、スマートフォンでいろいろと任務の内容と手続きを確認した。


「えっと、場所は国外ですね。飛行機とホテル代は領収書を取る……領収書の名前は……株式会社ナレッジ・システム? なんかどこでもありそうな社名ですね」

「え、ホテルの上限金額がアホほど低い……。こんなんじゃドミトリーだって泊まれないんだけど、どうなってんの?」


 スマートフォンを覗き込んでくるリリムが、肩口で眉をひそめている。マリーにはまだホテル代の相場はわからないが、よっぽどお金がないのだろう。


「現地の教会で寝泊まりしろってことなんでしょうか? でもこの場所、カトリック教会なんか近くにあるんでしょうか……」

「どこなの?」

「イスラエルの都市エルサレムです」

 


これからだいたいいちゃいちゃしています。

ーーー

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