危険な兆候
俺達はイエローブリッジへ出発して、その日は一晩、簡易テントを建てて過ごすことにした。
「こんな感じでいいかな?」
ラミルがそう言って、テントを建てる。
「なんかテントっていうより、普通の建物みたいな大きさなんだけど」
ラミルが建てたテントは予想を遥かに上回る規模だった。
「そうかなあ? 前回と同じで中はもっと広くなっているよ。さあ中に入ろう。今日はこの一つのテントでみんな泊まるからね」
そうして俺は建物の中に入る。
「え! 広いなあ。まるでホテルのフロントみたいな広さだ。それに三階建だし、もう村の建物これでいいじゃん」
俺は明るく照らされた広い部屋を隅々見渡す。
「この建物は、魔力で作ったものだから永久には使えないよ。キクの部屋はあっちだから」
ラミルが指差す。
「本当にホテルみたいな感じだなあ」
「じゃあ、おやすみキク。今日は無しだよ」
ラミルはニコッと笑って自分の部屋に行く。
「恋人なんだったら一緒の部屋でもいいのにな」
俺は変な妄想をしつつ自分の部屋で寝る準備をするのだった。
そしてその頃、偵察に行っていたシンエイはというと。
「ここがイエローブリッジか。結構な数の魔物達が暮らしているんだな」
シンエイは少し離れた丘からイエローブリッジを眺めていた。
「シュンっ」
何かの物音がする。
「どうやら、そっち側の隠密さんも来たようだ」
シンエイは後ろを振り向く。
そこには二つの短い刀を腰に下げた男が立っていた。
「よく気がついたな。完全に気配を消していたのに」
その男は言う。
「ここに来る前から、あなたが来る事は大体予想していました。丁度いいです。実はそちらの長の方に伝言がございます」
シンエイは言う。
「伝言? 聞くだけ聞こう」
「ありがとうございます。これから、私の村の主であるラミル様がこちらへいらっしゃいます。ラミル様はつい最近、魔王へとなられました。それに加え、賢者の白兎様からも承認を頂いております。そこで、ラミル様とそちらの長の方との対談をお願いしたい。これが伝言です」
シンエイは一気に読む。
「なるほど、お前はそのラミルという奴が来るから、先に偵察に来たというわけだな。そして、伝言についてだが、こっちからも提案で、俺達のこの国イエローブリッジへの不可侵を約束してくれ」
男は提案をしてくる。
「不可侵ですか…… それはどういう意味か分かっています? もし分かっているなら到底受け入れることができないのも分かるはずですが」
シンエイは少し笑いながら言う。
「ああ、もちろん分かっているさ。その条件を飲み込め無いのなら、力を持って制圧するしか無い。こんな風にね」
男は急にシンエイに斬りかかる。
シンエイは素早く反応して男を逆に投げ飛ばす。
「威勢が良いですね。忘れていたのですが、あなたの名前を聞いてもいいですか?」
シンエイは余裕な表情で聞く
「俺はタークスだ。俺達の長であるギャイン様の直属である情報部隊の隊長だ」
タークスは自己紹介をする。
「なるほど、情報部隊の方なんですね。ですが、そんなに内部の事を話してもいいのですか?」
シンエイは言う。
「ああ、別に言ったところでお前達に負ける事は無いからな。俺達は魔王カラミティ様を倒したというそのラミルという奴を宿敵にしている。それに聞くところによるとお前の主はカラミティ様を倒していないようだな。カラミティ様は俺達を守るために自ら犠牲になったのだ」
タークスの口調に力が入る。
「誰がそんなデタラメを…… まあ良いです。あなたには私の伝言を伝えてもらうという大切な仕事があるので、殺しはしません」
そう言うとシンエイは本格的に戦闘体制に入る。
「まさか、あれは曲速の構えか?」
タークスは驚いたような表情をする。
「あなたは物知りなんですね。そうですこの曲速の構えは非常に強力な攻撃です。速さを極め、この刀を構成する原子ですら置き去りにする。そしてその現象のよってこの刀はまるで縄のような斬撃を繰り出す。さあ、この攻撃に挑みますか?」
シンエイは言う。
「くそっ情報と違うじゃないか。こんな奴聞いてないぞ…… でも」
タークスは自然に手に力が入る。
「やってやろうじゃないか。お前は俺を殺すことができない。その制限がある事を忘れて無いよな」
タークスも反撃する。
「もちろんです。ではそちらからどうぞ」
シンエイが挑発する
「俺だってやる時はやるんだ」
タークスはそう言って自分の刀に星の力を与える。
「これに頼るしかない!」
タークスはシンエイに攻撃をする。
しかし、タークスは何も無いところで吹き飛ぶ。
「なんだ?今の」
そうタークスが思った瞬間にとてつもない衝撃がタークスの体に入る。
「たっ立てない。俺は何も攻撃できていない」
「自分の刀に星の力を宿すとは考えましたね」
シンエイは手を叩きながらタークスに近づく。
「俺の負けだ……」
タークスは弱々しく言う。
「知ってます。ではさっきの頼んだものをお願いします」
そうシンエイが言うと、シンエイの回し蹴りがタークスの背中に直撃する。
その衝撃でタークスは空に吹き飛ばされる。
「軌道はバッチリだな。これであのタークスという男も移動しなくて済むだろう。本当にこの私に感謝してほしいくらいだ。さあ、ラミル様との合流場所に急ごう」
そうしてシンエイは圧勝して俺達のところへと戻って来るのだった。
そして吹き飛ばされていたタークスはギャインの城の墜落していた。
「ドカーンっ」
「何事だ!」
城の警備が一斉に音のした方へ行く。
「あれは?タークスではないか!」
警備のリーダーが倒れているタークスを見つけて駆けつける。
「タークスよ目を覚ませ!」
その呼びかけでタークスは少しずつ目を覚ます。
「ミラン様申し訳ありません……」
タークスが言う。
「誰がこんな事を……」
ミランは言葉を失う。
「ミラン様、いち早く準備をお願いします。そして相手からの伝言なのですが……」
タークスが言おうとする。
「タークスよ、お主の言わんとしている事はなんとなく分かる。相手はラミルという輩だな。そしてこの我らの国に宣戦布告という事のようだ。よし分かった」
ミランは勝手に話を進める。
「ミラン様、そのような事ではなくて……」
「タークスよ、何も言わなくて良い。私達のイエローブリッジはカラミティ様の形見。そのカラミティ様を倒したとされているラミルという奴を今度は私が倒す。みんな!戦闘の準備だ」
ミランは準備を始める。
「ミラン様、少しは話を聞いて……」
タークスは再び気を失う。
「タークスよ、お主の無念はこの私が晴らす。絶対に勝って見せるから、そこで安心して見てくれ」
ミランは言う。
「ミラン様! あの装置の準備をしますか?」
ミランの部下が言う。
「ああ、そうだな。全員持ち場につけ!」
そうして一人の男によって思わぬ方向に物事は進むのだった。
そして翌朝
「はぁー 今日もぐっすり眠れたなぁ」俺は部屋の外に出る。
「あれ? みんなまだ起きていないのか。少し早く起きてしまったな。ちょっと外でも散歩しよう」
俺は建物の外へと出る。
そこには、現実の世界となんら変わらない風景があった。早朝の気温の低下で葉っぱに付く雫。まるで別世界のような雰囲気を感じられる。
「タタタっ」
どこからか足音が聞こえる。
「なんだ!?」
俺はその音がする方向を振り向く。
「おはようございます。キク様」
そこにはシンエイがいた。
「シンエイか、お疲れ」
「ありがとうございます。ちなみにラミル様はまだ寝ていらっしゃいますか?」
シンエイが聞く。
「そうみたい。最近は疲れているんだろう。ねえ、少しここら辺散歩しよう」
「分かりました。なにか不思議な感じがしますが、お願いします」
そうして俺とシンエイはなぜか一緒に散歩をする事になったのだ。
仲間達がインフレを起こしつつあります。




