魔王の誕生
「ラミル様、お疲れ様です」
ミムラが静かにラミルに向かって言う。
「ありがとうみんな。それにキク、本当にありがとう」
ラミルは小さな声でそして力を振り絞って言う。
「ラミルは頑張りすぎなんだよ。一人で全部考えすぎだって」
俺はラミルを少しからかう。
「確かにな、今回は本当に危なかった。まさか一発であんなにやられるなんて。でも、キクとカルベロスのおかげで何とか意識を取り戻せたよ」
ラミルは弱々しく言う。
「ガサー」オメガドラゴンが再び動き出す。
「もう回復したのか。驚異的な回復能力だ」
ミムラは呟く。
「あいつはとんでもないやつだ。僕が頑張って付けた傷も一瞬で再生された」
ラミルは再び激しく動き出すオメガドラゴンの姿を見て言う。
「ここからは俺達がやるしか無いな」
俺は手に力を込めてオメガドラゴンに向かおうとする。
「ちょっと待ってキク、その必要は無いよ」
ラミルが俺達のことを急に引き留める。
「え? どうしてだラミル」
俺はラミルに尋ねる。
「いいんだ。これは僕がやる必要があるんだ」
ラミルは顔色を変えて立ち上がる。
「ラミル、それは危険だって、それに意識を取り戻したばっかりなんだぞ」
俺は必死にラミルを引き留めるようとするが、その制止も構わずラミルは一心にオメガドラゴンの方へ進んでいく。
「心配してくれてありがとうキク。でも少し僕の事を舐めすぎじゃない? 僕だって色んな事を想定しているんだよ」
そう言うとラミルは指を鳴らす。
「スターライトエクスパンド!」
ラミルがそう唱えた瞬間からオメガドラゴンの様子はおかしくなっていく。
「どうなっているんだ?」
俺は突然の出来事に状況を全然つかめないでいた。
そして徐々にオメガドラゴンの体の中から光が出て、オメガドラゴン自体を包んでいく。
「さすがです。ラミル様、こんな事を考えていたとは……」
カルベロスはその光を眺めて言う。
そしてオメガドラゴンは光に包まれたまま消滅していく。
「え! 一瞬で倒しちゃったよ。一体どうやったんだよ」
俺は一人だけ取り残されているような感じがして積極的にラミルに聞く。
「僕はさっきオメガドラゴンにやられる寸前、力を振り絞ってオメガドラゴンの体内に爆弾を仕掛けたんだ。でも、力を出し過ぎた影響で生命力まで使ってしまった。それで、あの昏睡状態になっていたのさ」
ラミルはいつもの感じで説明する。
「そんな事してたのかよ。早く教えてくれたら良かったのに…… なんか俺だけ知らないみたいで恥ずかしいじゃん」
俺は少しからかう友達に嫌気が差した時のような感情で言う。
「ごめんキク。でもキクに恥をかかせようとしたわけじゃ無いんだ。この技を成功させるにはとてつもない集中力が必要だから、あまり話をしている時間が無かった」
ラミルは少し申し訳無さそうに言う。
「そうだったんだ。なんかごめん」
俺は一瞬前の自分の言動を反省して言う。
「大丈夫。キクは僕の事を一番に考えてくれているから、そう思うのも当然だ。その気持ちも十分にわかる。
だから気にしなくていいよ」
俺はラミルの優しさを改めて実感した。
「ラミル様、そろそろ奥の扉に向かいましょう」
カルベロスが催促する。
「そうだな、あまりモタモタしていられない」
そうして俺達はオメガドラゴンの居た部屋の先へ行く。
そこには地下とは思えないほど外からの光が差し込んだ場所があった。そこには様々な昆虫達が独自の生態系を作っていた。
「こんな場所、初めて来た。この雰囲気だけでパワーを感じる」
俺はこの場所の神聖な雰囲気を敏感に感じ取る。
「あそこの像に行けば、力をもらえるよ」
ウニヤが一つの小さい像のところに案内する。
「オメガドラゴンを討伐した者に力を与えます」
その像の前には文字が書かれていた。
「そのまんまじゃん」
俺がそんな事を思っていると、ラミルがその像に手をかざす。
その瞬間にラミルは紫の風に包まれる。
「え! 大丈夫そう? なんかこういう色あんまり見た事無いけど……」
そして突然その風は消える。
「なんだ大丈夫そうじゃん」
俺はそう思ってラミルの後ろ姿を見つめる。
「なんだが成長した?」
ラミルは以前と違って少し大人っぽくなっていた。
「ラミル様のステータスが大幅にアップ、魔王の系統として全ての技の練度が上昇しています」
ウォータープロテクトがラミルを分析する。
「この力が湧いてくる感じ、ワクワクする」
ラミルが活気溢れる表情で確認する。
「みんなお待たせ、無事に終わったよ。今回の成果はみんながあっての物だ。改めて感謝する」
ラミルは軽く感謝を述べる。
「ラミル様のためなら、こんなの最低条件ですよ」
ミムラが言う。
「私も今回のことで分かった。ラミル様。あなたは魔王となってこの地を統べる方だと。そして魔王となられた今、私は今までに無い達成感を感じます。これは私がカラミティのところにいた時には味わえませんでした」
ウニヤが嬉しそうに言う。
「ではみなさん。帰りましょう」
カルベロスがそう言って俺達は洞窟をあとにする。
「帰りはわしにお任せください。ギャラクシーキャット!」
そうしてカルベロスはギャラクシーキャットの部隊を呼んで、俺達は一瞬で村に戻る。
「ふぅーー 快適だな。これからカルベロス必須にしよ」
俺は呟く。
「ありがとうございますキク殿、わしもそうしたいのですが、少々人気者でして、毎回付いて行けるわけではないのです。ギャラクシーキャットの部隊を今訓練中ですので、そのうちわしが居なくても良いようになります」
「そうだよな、カルベロスは忙しいもんな」
俺は少しガッカリしたような思いで呟く。
「そうだ。みんなに挨拶しないと」
ラミルがそう言って町の中央部に入る。
「おかえりなさいラミル様」
お出迎えしてきたのはやはりマイルだった。
「いつも早いな、ありがとうマイル」
ラミルは少し微笑んで言う。
「それでラミル様、結果を聞いてもよろしいでしょうか?」
マイルが真剣な表情で言う。
「ああ、結果は見事に成功だ。僕は正真正銘のこの地を統べる魔王だ」
「おめでとうございますラミル様」
マイルは深くお辞儀する。
「まあ、でもみんなの協力が無かったら絶対に成し遂げることは出来なかった。これは僕だけの称号では無い」
ラミルが言う。
「そうだったのですね、さあ、みなさんお疲れでしょうから」
そう言ってマイルは休憩室に案内する。
「ここでみんながいるうちに言っておくが、次の問題は魔王城付近にいる魔物達の事だ。彼らは新たな支配者を探している事だろう。だが、このスライムの僕が行っても素直に認めてくれるのかは分からない。なるべく武力衝突は避けたい」
ラミルが次の作戦を淡々と話す。
「そうですね。あの魔物達をまとめるのは難しいでしょう。少なくともあの魔物達は魔王カラミティの配慮で最低限の衣食住は保証されていた。しかし、私達が魔王カラミティを倒した事で、そのシステムは崩れ去った。
もしかしたら、そこにいる魔物達は私達の事を敵対視してるのかもしれないですね」
ミムラが言う。
「普通に考えたらそうでしょうね。あっちの魔物達からしたら生活を破壊されたのは事実。日々を生活している者達にとっては、誰が悪者なのかは関係無い。どれだけ生活を豊かにしてくれるかが重要なんだよ」
ウニヤが珍しく真剣に言う。
「ウニヤの言う通りだ。わしらもその事をしっかりと理解して行く必要があるだろう」
カルベロスがウニヤの意見に同調する。
「僕達もできる限りの事をしよう。誠実な態度を示していけば、必ず心を開いてくれるだろう。ということで今日は解散。みんなお疲れ」
そうしてカルベロス達は帰っていき、俺はラミルと二人で今後の事を話し込むのだった。
10話という事で、今後の展開も段々と出来上がってきました




