長い一息
「さあ、そろそろです」
マイルが会場に案内する。
「今回はいっそう豪華なんだな」
歓迎会の会場に着くと、大きな透明なドーム状に覆われた場所があった。
「今回は、魔王討伐と歓迎会を兼ねているからな。このくらいしないと。そうだラミル様に会う前に祭りに参加しませんかベナエルさん」
マイルが言う。
「私は特に何もしていませんがこんな素晴らしい祭りに参加してもよろしいのでしょうか?」
ベナエルは少し、戸惑いながら言う。
「もちろんです。それにこういう催し物は人数が多ければ多いほど楽しめます。むしろ参加してもらいたいくらいです」
マイルが励ますように言う。
「そうでしたか…… それなら良いのですが。わかりました。私も参加させていただきます」
「是非ともお願いしたい。そういえば今回、それぞれの種族で出し物をするのですが、ベナエルさんの種族はどういった種族なのですか?」
マイルが聞く。
「私達の種族、亜竜族は手先が器用なんです。私達の国は様々な加工を担っています。他の国から材料を仕入れ、それを製品化して、再びそれを他の国へ売り出すという形で国を運営しています。そうですねぇ、特技は何かと聞かれると、手先を使う物だったら大体できると思います」
「なるほど、分かりました。では、折り紙とかはどうですか?」
マイルが提案する。
「折り紙?何ですかそれは。私達の国では聞いた事がありません」
ベナエルは不思議そうな顔をして言う。
「その文字通り、一枚の紙を使って様々な物を表現する物です。特に人気なのはドラゴンの形ですね」
「へえーー こっちの世界では鶴の代わりにドラゴンなのか。絶対、こっちの方が難易度高いよな」
俺は思う。
「分かりました。やってみましょう。なんか聞いた感じだと、とても面白そうだと思いました」
ベナエルが快く承諾する。
「ありがとうございます。では、あちらに紙を何枚か用意してありますので、本番まで練習していただいて良いですよ」
「そうですね。みんなをがっかりさせないように頑張ります」
そう言ってベナエルは俺達と別れる。
「なあマイル、今日、ラミル全然見かけないけど、どうかしたのか?」
俺はふと気になっていた事を聞いてみる。
「ラミル様はなら、コマチ殿達と訓練ルートの視察に行っている。一応、一般開放前の最終準備という事らしい」
「なるほど、魔王を倒したばかりだっていうのに、なんか忙しいな」
俺は村のみんなが一生懸命に準備に取り掛かっている様子を見て呟く。
「そうだな、みんな魔王討伐に喜びつつも、自分のやるべき事をきちんとやっている。私はな、国家が成長するというのは、こういう風に一人一人がしっかりと自分で次の目標に一丸となって取り組む事だと思うんだ」
マイルは村の建物を見て言う。
「さあ、私達もこんな所で道草を食っている場合じゃない。会場の準備を進めないと。キク殿は花火制作に力を貸して欲しい」
「分かった。それで俺はどう手を貸せばいいんだ?」
「普通に台の設置とかかな。じゃあ、よろしく」
マイルがそう言って足早にどこかへ行く。
「なんか能力を使うとかじゃないのか。まあいいや、俺も何かやらなきゃな」
そうして俺も休む暇無く会場の準備に取り組むのだった。
その一方でラミルはというと
「なるほど、今の予約状況はこんなに沢山入っているのか。少しまずい状況かもな。予想以上だ。それにいくらコマチ達が付き添っているとはいえ、戦闘経験の無い初心者なんか来たら大変だ。何かいい方法は無いかな」
ラミルは訓練所の運営に頭を抱えていた。
「ラミル様!少しお時間良いですか? 我もこの予約状況を確認して思ったのですが、三魔獣の復活にはいくらか時間がかかります。ですから、何回も短時間に訓練を行うことはできないのです。もし、一回の人数を増やしたとしても、人数が多すぎて訓練にならないという声も挙がるでしょう。
それで、一つ提案なのですが、訓練を受ける者達を、まず我らの村で訓練という形で運営するのはいかかでしょう。
そうすれば、三魔獣の訓練には適さない者もそこで除外することもできます」
コマチが画期的な提案をする。
「なるほど! それは良い案だ。一番の問題はそこだと思っていたんだよ。僕達は三魔獣を簡単に倒しているが、普通の兵士にとっては災害級だからな。そんな魔物に初心者が来られても大変だ」
「はい、その通りです。そして我らの村は現在、人間の食糧生産を請け負う準備をしています。そこで、訓練を受ける者達に宿泊施設を提供するのです。もちろん宿泊料はいただきますが。今の予約状況の人数でも受け入れることはできます。
それに、待ち時間も比較的快適に過ごすこともでき、そして、人の交流もさらに増して、この地域も活気づくでしょう」
コマチが自信を持って自分の考えを言う。
「そこまで考えていたのか。確かにこれだけの大人数に提供するだけの食糧体制は整ってきている。それに加えて、イエティ族にも相談して水路の整備もしてもらおう。よし、なんか上手くいきそうだ。ありがとうコマチ、君の提案のおかげだ」
「いえいえ、我はただ思いついた事を言っているだけですので」
コマチは珍しく嬉しそうな顔をする。
「これでこの問題も一件落着という事で、僕達もそろそろ村に帰るとしよう。コマチ達も出し物があるから早めに帰らないと」
そうしてラミル達は仕事を終え村に戻る。
「やっとだ。こんな感じか。そろそろ始まりそうだし帰るか」
俺は花火のセットを終え村に戻る。
「おお、結構良い感じの雰囲気だ。前回よりも随分と豪華な飾りだな」
村の広場にはいくつかのテーブルが並べられ、その上には鮮やかに彩られた料理が並んでいる。
広場を囲む様々な出店が並んでいる。
そして、建物の隙間を這うように施される装飾。
そういうのが合わさって、村全体は温かい光に包まれる。
「なんか、見ているだけで癒されるな」
「うわっ、すごい綺麗だ。今回の祭りは張り切り具合が前回とは桁違いだ」
ラミル達がちょうど帰ってきていた。
「遅かったなラミル。こんな夕方くらいまで仕事してるなんて珍しいな」
「いつも仕事して無いみたいな物言いだな。まあ今日は一大プロジェクトの件で忙しかったんだ。
それにしても、本当に綺麗だなキク」
ラミルが言う。
「そうだな、そろそろ始まるみたいだし。種族ごとの出し物もあるみたいだからすごいワクワクしてる」
そうして俺とラミルは村を眺めながら自分の席に向かう。
「この席、来賓みたいな感じの席だな」
俺がそんな事を思っているとマイルがステージに登場する。
「みなさん、お待たせいたしました。これから魔王討伐記念祭兼、歓迎祭行いたいと思います。最初にラミル様からお言葉をお願いします」
そうしてラミルはステージにあがる。
「みんな、これまでの活躍お見事だった。以上」
ラミルがすぐにスピーチを終えて戻ってくる。
「なんでだよラミル、もっと長く話せば良いのに」
「みんな疲れていると思ってさ、長々と話を続けるよりみんなでご飯楽しんだ方がいいかなって思ったんだ」
ラミルがそう言っている間にマイルが再びステージにあがる。
「では、みなさんラミル様からのありがたいお言葉を頂きまして、これより食事会を開催します。では、みなさんごゆっくり」
そうして色々な食材を使った料理が所狭しと並べられている机にみんな一斉に向かう。
「これが俺がさっき捕まえてきたやつか。エクリプスの肉を使った炒め物か。よしっ、一度食べてみるか」
俺は他の料理も取って自分の席に戻る。
「さあ、食べてみるか。何これ! うまい。エクリプスの肉ってこんなに食べやすいんだ。独特の臭みも持っていないし、あんな化け物みたいな魔物がこんなに美味いなんて驚いたな。まあでも、現実世界でもナマコとかあるからな、そんな感じか」
俺は一人で黙々と食べ進める。
「なあ、キク。一応お酒も用意されているけど飲むか?」
ラミルが戻ってきて俺に尋ねる。
「お酒か。あんまり普段飲まないけど、せっかくだから飲んでみるか。俺も飲むよラミル」
そうしてラミルは一つの瓶を持ってくる。
「この地特産のお酒だ。早速これで乾杯しよう」
ラミルがそう言って乾杯する。
「どれどれ?俺お酒あんまり飲まないからわかんないけど、なんか日本酒みたいだな。それに結構強めだ」
「大丈夫か?キク、そんな顔をして。ゆっくりでいいからな。ほら、そろそろみんなの出し物が始まるみたいだ」
そして、このお祭りは一番の盛り上がりを迎えるのだった。
前回の引き続き日常パートです。




