第6話:深淵への招待状――「螺旋階段」と「安全手すり」の突貫施工
「一ノ瀬様、見てください。領地が移動した後の地面に、人工的な垂直穴……これこそ伝説に聞く『忘却の迷宮』の入り口ですわ。ですが、穴の縁が崩れやすく、一般人が近づけば一瞬で滑落事故につながります!」
エレナが警告する通り、そこには底も見えない巨大な暗黒の穴が。しかし、危険はチャンスだ。領地の移動で現れたこの遺構を、俺たちは「世界一安全な観光ダンジョン」として再開発することにした。
「ベルタ、まずは穴の周囲を『土留め(どどめ)』して固めろ! 階段は、省スペースで強固な『中柱式螺旋階段』を採用する。フィア、空から中心となる巨大な鋼管を垂直に吊り下ろせ。1ミリでも傾いたら、下に行くほどズレが大きくなるぞ!」
まず、階段の軸となる巨大な鋼の柱を穴のど真ん中に突き立てる。
「フィア、風魔法で柱を完全静止させろ! エレナ、測量機で垂直度を確認!」
「垂直度、誤差0.5ミリ以内! 合格ですわ!」
柱が固定されると、次は『踏み面』となる扇形の段板を、下から順に積み木のように溶接していく。小型ドラゴンが火を吹き、金属蟹がその重い段板をガッチリと保持する。
「観光客が通るんだ。ただの階段じゃダメだ。ベルタ、手すりの高さは1.1メートルで統一しろ! 子供がすり抜けないように『縦桟』の間隔も細かくするぞ!」
さらに、湿った地下でも滑らないよう、踏み面の先端にはスライムのスポットが生成した特殊なザラザラ素材――『ノンスリップ(滑り止め)』を貼り付けていく。
「よし、これで暗闇でも足元を外さない。仕上げに、エレナが設計した『自動調光の魔法灯』を手すり沿いに配置するぞ!」
螺旋階段が長くなりすぎると、登り降りの途中で疲れてしまう。
「一定の間隔で、休憩用の『踊り場』を設ける。ここは万が一の避難経路としても機能する。ベルタ、壁面に『ケミカルアンカー』を打ち込んで、踊り場をガッチリ固定しろ!」
数時間の突貫工事により、かつては死を招く落とし穴だった場所が、壮麗で機能的な「地下迷宮への玄関口」へと生まれ変わった。
「所長、完璧だよ! 手すりを握ってみたけど、びくともしない。これならお年寄りから子供まで、安心してお宝探し(観光)に行けるね!」
ベルタが満足げに手すりをパシパシと叩く。
「……ふぅ。これで領地の移動跡地も『負の遺産』から『収益源』に変わったな」
俺は、螺旋階段が描く美しい曲線を見下ろした。だが、完工の余韻に浸る俺たちの前に、一台の豪華な魔導馬車が砂塵を上げてやってきた。乗っていたのは、王立魔導建築ギルドの総帥。その顔は、かつてないほど険しい。
「一ノ瀬聖! 喜んでいる場合ではない! アトランティスの浮上、火山の地熱発電、そして領地の移動……。貴様が短期間で成し遂げた『世界の改造』により、大地の魔力バランスが崩壊し、大陸そのものが沈没し始めている! このままでは1ヶ月以内に世界中の陸地が海に沈むぞ!」
どうやら、俺たちの「良かれ」と思ってやった工事が、世界の理を書き換えてしまったらしい。
今回の建築・土木用語解説
• 滑落: 斜面や段差から滑り落ちること。
• 土留め(どどめ): 掘削した穴の側面が崩れないように、板やコンクリートで押さえること。
• 踏み面: 階段の、足を乗せる踏み板の表面のこと。
• 縦桟: 手すりなどの格子部分の、縦方向の棒のこと。
• 踊り場: 階段の途中に設けられた、少し広めの平らな場所。足休めや、転落時のクッションになる。
• ケミカルアンカー: 接着剤を使って、ボルトをコンクリートや岩盤に強力に固定する方法。
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