第2話:爆速・土木生態学! ドリルワームの「シールド工法」と連動橋の架設
「所長、見て! あの石橋、もう中央が5センチも沈下してる。次に魔物の群れや重い荷馬車が通ったら一巻の終わりだよ」
ベルタが指差した先には、領地の物流を支える古びた石橋があった。長年の侵食に加え、最近の地殻変動で地盤が緩み、崩落は時間の問題だ。だが、この橋を数ヶ月止めて架け替える余裕はない。
「……よし、橋を直すんじゃない。山をぶち抜いて『ショートカット』を作るぞ! ベルタ、この辺りに住み着いている『ドリルワーム』たちを呼べ。あいつらを『生きたシールドマシン』として採用する!」
俺が考えたのは、地上の橋がダメなら山を貫くトンネルを作り、その出口から最短の橋を繋ぐ『トンネル・橋梁連続工法』だ。
ドリルワームは、硬い岩盤を好み、魔力の高い鉱石に向かって掘り進む習性がある。
「フィア、山の反対側に『高純度魔導石』を設置しろ! ベルタ、ワームたちの鼻先に誘導用の微弱な魔力を流せ。……掘削開始だ!」
ズズズズズ……ッ!!
数匹のドリルワームが連なり、猛烈な勢いで山肌を削り取っていく。彼らが通った後は、綺麗な円形の穴が開く。これが現代の『シールド工法』の原理だ。俺たちはその後を追い、崩落を防ぐための『セグメント(壁材)』を魔法とスライムの粘着力を利用して、手際よく壁面に貼り付けていった。
トンネルが川岸に到達した瞬間、俺は次の指示を出した。
「次は橋の土台だ! ミーナ、川底の岩盤の位置を指定しろ。ワームたち、そこを垂直に20メートル掘り下げろ!」
本来なら巨大な掘削機が必要な『場所打ち杭』の穴あけも、ドリルワームにかかれば数分だ。彼らが開けた垂直の穴に、ガッツが鉄筋を放り込み、ベルタが魔導コンクリートを流し込む。
「エレナ、トンネルの出口と橋の土台の『芯出し』を確認しろ!」
「誤差は3ミリ以内。完璧ですわ、一ノ瀬様。……信じられません、魔物の習性を利用して『工期(納期)』を80%も短縮するなんて」
エルフの検査官であるエレナも、この爆速施工には驚きを隠せない。仕上げに、あらかじめベルタが地上で作っておいた橋の床板(プレキャスト部材)を、フィアが空から運び、杭の上にガチリとはめ込んだ。
作業開始からわずか3日。崩落寸前だった古い橋の横に、山を貫く近道と、頑丈な最新の橋が連結された「新ルート」が完成した。
「すごいよ所長! これで街への移動時間が半分になったよ!」
ベルタが興奮して壁を叩く。ドリルワームたちは、報酬の魔導石をおいしそうに齧りながら、満足げに地中へ帰っていった。
「ふぅ……。自然界にある力を『設計』に取り込む。これこそ、この世界での土木の醍醐味だな」
俺は、ピカピカに磨かれたトンネルの壁(スポットが掃除したおかげだ)を見て、満足げに頷いた。
「所長! 橋とトンネルができて喜んでる暇はないよ。……領地に戻ってきた商人たちが言ってるんだけど、隣の領地の領主が、一ノ瀬建設の噂を聞きつけて『うちの領地の火山を噴火しないように工事してくれ』なんて無茶振りをギルドに送ったらしいわよ」
リアナが困ったような、それでいて少し期待しているような顔で報告書を持ってきた。
今回の建築・土木用語解説
• 沈下: 地盤が緩んだり重みに耐えきれなくなって、構造物が沈んでしまうこと。
• シールド工法: 筒状の機械で周囲を支えながら掘り進み、同時に壁を組み立てていくトンネル工事。
• セグメント: トンネルの壁を作るための、分割されたブロック状の部材。
• 場所打ち杭: 現場で地面に穴を掘り、そこに鉄筋を組んでコンクリートを流し込んで作る杭のこと。
• 芯出し(しんだし): 構造物が設計通りの正しい位置にあるか、基準線を引いて確認すること。
• プレキャスト: 現場ではなく、工場などで事前に作っておいたコンクリート部材のこと。現場での作業時間を大幅に短縮できる。
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