第8話:回路を組み替えろ!「制御室」ハッキング改修工事
切り開いた入り口から内部へ足を踏み入れた途端、通路の壁面に埋め込まれた赤色の発光ラインが、心臓の鼓動のように激しく点滅を始めた。ピラミッドそのものが、侵入者を排除するための「免疫反応」を起こしている。
「一ノ瀬様、防衛システムが完全に覚醒しましたわ! 通路の先にある『制御室』に到達し、メインサーバーの電気系統を直接書き換えない限り、このピラミッド内の全トラップが起動し続けますわ!」
エレナの叫びと同時に、天井から防衛用の小型ドローンが次々と現れる。カイルとミーナが応戦する中、俺たちは通路の突き当たりにある、ひときわ巨大な「制御室」の扉の前に辿り着いた。だが、この扉には物理的な鍵穴も、電子的なパネルすら存在しない。
「……なるほど。壁の内部に流れる『魔導電流』のパターンそのものが鍵になってるのか。なら、ハッキングなんてまどろっこしいことはしない。この場で『電気系統のバイパス改修』を行って、強制的に扉を開けるぞ!」
扉の横にある、不自然に滑らかな壁のパネルに俺は指をかけた。
「ガッツ、ここだ! この裏にメインの『分電盤』が隠れてる。超振動カッターで表面だけを薄く剥ぎ取れ!」
「おうよボス! 中の配線を傷つけないよう、皮一枚残して削ってやるぜ!」
ガッツが精密に壁を削り取ると、そこには幾千もの細い光の繊維が複雑に絡み合った、古代の配線盤が姿を現した。
「エレナ、どの線が『扉のロック』を司る信号線だ?」
「解析完了……。その青く発光している三本の束ですわ! ですが、ただ切断すれば即座に予備電源が入り、強力な電撃が放出されますわよ!」
「なら、切断せずに『ジャンパー線』を割り込ませる。ロック信号が流れる前に、俺たちが作った『偽の解除信号』を別の回路から引っ張ってきて、ここに流し込むんだ」
俺は絶縁処理された特殊なピンセットを使い、光の繊維の間に細い導線を割り込ませていく。これは、古くなったビルの配電盤を修理する際に、故障した部品を飛び越えて回路を繋ぎ直す手法と同じだ。
1. 絶縁処理: 周囲の回路に干渉しないよう、特殊な魔法のテープで保護する。
2. バイパス接続: ロックをかけているリレー(スイッチ)を物理的に飛び越える回路を作る。
3. 強制信号入力: エレナの端末から「開門」のパルスを直接その回路へ送り込む。
「よし、接続完了。……いくぞ。……今だ、スイッチオン!」
俺がバイパス回路のスイッチを入れた瞬間、制御盤からパチリと火花が飛んだ。次の瞬間、ピラミッド全体を包んでいた不気味な赤色の点滅が止まり、穏やかな白い光に変わる。
ズズズ……と重厚な音を立てて、巨大な扉が左右に割れるようにして開いた。
開かれた扉の先には、広大な空間と、そこを浮遊する無数のホログラム・ディスプレイが広がっていた。
「……止まりましたわ。防衛ドローンもすべて待機モードに移行しました。一ノ瀬様、ピラミッドの『管理者権限』の掌握、成功ですわ!」
エレナが歓喜の声を上げ、カイルたちが武器を収める。ピラミッドの心臓部に辿り着いたことで、月面全体を揺るがしていた緊張が、ふっと消えていった。
「ふぅ……。どんなに高度なセキュリティでも、結局は『電気の通り道』がある。そこを組み替えてやるのが、俺たち電気工事士の仕事だからな」
俺は愛用のペンチを工具袋にしまい、制御室の中央にある、月面全体を映し出す巨大なモニターを見上げた。そこには、月面の裏側に隠された「もう一つの真実」が映し出されていた。
「所長、見て……。このピラミッド、ただの施設じゃないわ。……月を『動かす』ための、操舵室みたいになってるわよ?」
ミーナがモニターを指差し、驚愕の声を上げる。モニターには、月面にある巨大な「クレーター」たちが、実は巨大な「姿勢制御エンジン」であるという衝撃の事実が映し出されていた。
今回の建築・電気用語解説
• 分電盤: 電気の通り道を各所に分けるための装置。ここを操作することで建物全体の電気を管理できる。
• 短絡: 本来通るべき道ではない、近道を通って電気が流れてしまうこと。故障の原因になるが、意図的に使うこともある。
• バイパス回路: 故障した箇所や、通したくない箇所を避けて電気を流すために、新しく作る「回り道」のこと。
• ジャンパー線: 回路同士を一時的に繋ぐための短い電線のこと。
• 絶縁: 電気が漏れたり、他の線と接触したりしないように、電気を通さない物質で覆うこと。
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