第7話:封印の黒き鏡面――「超硬質解体カッター」による強行突破
タイコ・クレーターの縁に鎮座する黒いピラミッド。その表面は鏡のように滑らかで、継ぎ目ひとつ見当たらない。カイルが槍の石突きで叩いてみたが、金属とも石ともつかぬ鈍い音を返すだけだった。
「一ノ瀬様、この物質は未知のナノ合金で構成されていますわ。分子結合が極めて密で、通常の物理攻撃や魔法では傷一つ付きません。……文字通りの『鉄壁』ですわね」
エレナが解析データを表示するが、扉らしき境界線すら検知できない。だが、俺たち現場の人間にとって「壊せない壁」など存在しない。ただ「道具」が足りないだけだ。
「よし。扉がないなら、俺たちが『開口部』を作ってやる。ガッツ、地上から取り寄せた『超高出力レーザー・ダイアモンドカッター』を展開しろ! これからここに、工事用の臨時入り口をぶち抜くぞ!」
真空の月面で硬質物を切断する場合、飛散する微細な「切り粉(切削屑)」が最大の敵になる。これが精密機器に入り込めば一巻の終わりだ。
「フィラ! 切断予定箇所を囲うように、魔法の『防塵テント』を張れ! ミーナ、お前はテント内の空気を抜いて、強力な磁気吸引機で削りカスをすべて回収するんだ」
「オッケー、一粒も逃さないよ!」
俺たちはまず、ピラミッドの壁面に強力な吸着パッドを打ち込み、切断機を固定するための『ガイドレール』を設置した。低重力下では反動で機械が浮き上がってしまうため、この「足場固め」が地上の工事以上に重要になる。
いよいよ「解体」の開始する。俺が手に取ったのは、ダイアモンドの粒子を電着させた高速回転円盤と、局所を瞬時にプラズマ化させるレーザーを組み合わせた特製重機だ。
「いくぞ……『プランジカット(飛び込み切り)』開始!」
キィィィィィィィン! という高周波の振動が、大気のない月面で地面を通じて足元に響く。
青白いレーザーが壁面を加熱して分子結合を弱め、そこへ超高速回転するダイアモンド刃が食い込んでいく。真っ黒な壁に、一本の鮮やかな「銀色の線」が刻まれた。
「よし、食いついた! ガッツ、冷却用の窒素ガスを全開だ! 摩擦熱で刃を焼き付かせるなよ!」
「分かってるぜボス! この硬さ、ドワーフの魂が燃えるぜ!」
四角形に切り込みを入れたところで、最後の一押しだ。
「エレナ、切り出したブロックに『強力油圧ジャッキ』を噛ませろ。一気に内側へ押し込んで、道を作るぞ。……せーの!」
ズゥゥゥン……!
重低音と共に、厚さ1メートルはあろうかという巨大な黒いブロックが内側へ倒れ込んだ。そこから漏れ出してきたのは、数千年の間閉じ込められていた、古の文明の冷たい空気の残り香だった。
切り開かれた開口部の先には、等間隔に配置された光のラインが走る、長い通路が続いていた。
「……やりおったな、建築の民よ。この神域を物理的にこじ開けるとは」
カイルが驚愕と敬意の混じった表情で、切り口の美しさを眺めている。
「綺麗な断面だわ。まるで精密機械の部品みたい」
ミーナが、切り抜かれたブロックの断面に触れて呟く。
俺はカッターのスイッチを切り、ヘルメットのライトを通路の奥へと向けた。
「入り口さえ作っちまえば、こっちのものだ。さあ、月面の『大家さん』の正体を拝みに行こうか」
俺たちは、自分たちの手で作り出した「入り口」から、未知の闇へと一歩を踏み出した。
「一ノ瀬様、通路の奥から大量の『電力反応』が……! どうやらこのピラミッド、私たちが入り口をこじ開けたことで、全システムが『再起動』したようですわ!」
エレナの警告と共に、通路の壁が一斉に赤く点滅し始めた。
今回の建築・土木用語解説
• 解体カッター: 建物や構造物を取り壊す際に使用する強力な切断機。
• 養生: 工事中に周囲を汚したり傷つけたりしないよう、シートなどで保護すること。
• ガイドレール: 機械が正確に動くための道筋。
• プランジカット: カッターの刃を直接、素材の表面から突き刺すようにして切り込みを入れる手法。
• ジャッキアップ: 重いものを下から持ち上げたり、強い力を加えたりするために使われる油圧式の装置。
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