第4話 悠久の疾走、魔導軌道の再起動(リスタート)
新大陸の拠点を盤石なものとした俺たちが次に向かったのは、密林と巨岩が入り混じる未踏の深部だった。そこでフィラが空から見つけたのは、木々に飲み込まれながらも、地表から数メートル浮いた状態で静止している一対の「銀色のレール」だった。
「聖、見て! どこまでも真っ直ぐ伸びる道の跡があるよ。でも、石も砂利も敷いてないの」
俺は現場に到着するなり、そのレールに手を触れた。冷たく、それでいて微かな振動を感じる。開発したばかりの魔導ステンレスに近いが、より高度な多層構造を持つ未知の合金だ。
「……これは橋じゃない。『超伝導』の原理を利用した磁気浮上式の軌道、つまりリニアモーターカーの成れの果てだ」
「りにあ……? 一ノ瀬様、このレールからは古代の魔力回路が検出されますわ。ですが、長年の放置による回路の断線と、地殻変動による『軌道の狂い』が深刻です。これではまともに走るどころか、脱線して大惨事になりますわ」
エレナが投影したホログラムには、歪んだレールの断面図が赤く警告を示していた。
この古代鉄道を復旧させれば、港から火山地帯、そしてこの奥地までを数十分で結ぶ最強の物流網が手に入る。
そこで俺は即座に工事計画を立てた。
「ガッツ! 重機を回せ。レールの傾きと捻れを直すぞ。新幹線の維持管理と同じだ。一ミリの狂いも許さねえ『軌道整備』をやる!」
「合点だ、ボス! ドワーフの意地にかけて、定規も入らねえくらい真っ直ぐにしてやるぜ!」
俺が指示したのは、現代の高速鉄道でも行われる「マルタイ(マルチプルタイタンパー)」作業の魔導版だ。レールの下を流れる魔力線を整えつつ、物理的な歪みを油圧ジャッキとドワーフの怪力でミリ単位で修正していく。
「リアナ、前回作った地熱発電所からの電力を、このレールに直結する。電磁誘導によって推進力を生むんだ。……いいか、ローレンツ力の原理だ。
この『力』を、車両ではなくレール側の位相を制御することで生み出す。重い車両を物理的に押すんじゃなく、磁力の波に乗せるんだ」
数日間の不眠不休の作業を経て、俺たちは遺構の奥で見つけた流線型の車両――『雷鳥』と名付けた古代の先頭車両を軌道に乗せた。
「冷却系、魔導窒素循環開始! 超伝導状態を確認!」
「電圧上昇、定格まであと5パーセント……。聖様、いつでもいけますわ!」
エレナの合図で、俺は運転席……ではなく、コントロールパネルの「全線開通」スイッチを叩いた。
シュン……ッ!
重々しい金属音は一切しなかった。数トンの質量を持つ車両が、滑らかに数センチ浮上し、そのまま音もなく加速を始めたのだ。
「うわぁぁっ! 速い、速いよ聖! 私の飛行速度を超えてる!」
上空を並走するフィラが驚喜の声を上げる。
密林を切り裂き、銀色の閃光が走り抜ける。かつて数日かかった距離を、この魔導軌道はわずか数分で踏破していく。
「……物流の革命だ。これでこの大陸の全ての資材が、俺の手の内に揃う」
俺は窓の外を流れる景色を見つめながら、確かな手応えを感じていた。
古代の技術を、現代の「施工管理」で蘇らせる。地図にない道が、今、確かな「大動脈」として鼓動を始めた。
「所長! 終着駅で待ってたけど、あまりの速さに腰を抜かしたわよ!」
ミーナが新しい駅舎で三叉槍を振り回して笑っている。
「聖様、これで新大陸の開拓は一気に加速しますね。……でも、駅の売店のメニューも、聖様が監修されるのですか?」
「……駅弁か。いいな、現場飯の進化系として考えておくか」
俺たちは次なる目的地――この鉄道の先にある、雲を貫く『世界樹の断崖』を見据えた。
今回の建築・土木用語解説
• 超伝導: 特定の条件下で電気抵抗がゼロになる現象。リニアモーターカーの浮上や推進に欠かせない。
• 軌道整備: 列車の走行によって生じたレールの歪みをミリ単位で直す作業。乗り心地と安全性の要。
• 電磁誘導: 磁界の変化によって電圧が生じる現象。これを利用して車両を非接触で加速させる。
• 定格: 機器が安全かつ安定して発揮できる、設計上の限界性能。
• 大動脈: 経済や物流において、最も重要で大量の輸送を担う路線のこと。
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