第3話 魂を鎮める「科学的」地鎮祭
新大陸の電力供給に目処が立ち、俺たちは次なる工程である『新都・レガシーシティ』の基礎工事現場へと移動した。だが、そこに待ち受けていたのは、巨大な槍と「火の粉」を纏った異様な集団だった。
「止まれ、略奪者ども! この地は我ら『灰の民』の聖域。大地の精霊を無視して土を穿つなど、許されることではない!」
褐色の肌に複雑な幾何学模様のペイントを施した男が、俺の鼻先に槍を突きつける。アッシュ・クランの族長、ガラムだ。
「聖様……彼らはこの火山の振動を『精霊の怒り』だと信じていますわ。無理に工事を続ければ、全面戦争になります」
リアナが心配そうに俺の袖を引く。
「……精霊の怒りねぇ。ガッツ、あそこの地表面の『陥没』と、噴き出してる『可燃性ガス』の濃度を計れ」
「合点だ、ボス! ……うわっ、メタンガスが充満してやがる。おまけに地盤がスカスカだぜ。これじゃ、家を建てた瞬間にズブズブ沈むな」
俺はヘルメットを脱ぎ、ガラムの前に一歩踏み出した。
「族長。あんたの言う『精霊の怒り』ってのは、具体的にどんなもんだ?」
「決まっている! 大地が震え、毒の風が吹き、やがて我らの住居を飲み込む。これは地鎮の儀を怠った報いだ!」
「なるほど。なら、俺が『現代工学式の地鎮祭』を執り行ってやろう。精霊の怒りを鎮め、二度と大地が揺れず、毒も吐かないようにしてやる」
「……何だと? 鉄の棒を振り回すだけの貴様らに、何ができる!」
俺は不敵に笑い、【スキル:現場一式・資材調達】を発動した。
運ばれてきたのは、清めの塩でも酒でもない。大量の『固化材(高品質セメント)』と、『深層混合処理機』だった。
「これより儀式を執り行う。……ガッツ、注入口セット! 魔法で練り上げた『聖なるミルク(セメントミルク)』を注入しろ!」
俺が提案したのは、単なる祈りではない。土そのものの性質を変える『地盤改良』だ。
1. 降神の儀(調査): 【スキル:サウンディング試験】で地中の弱点を見つける。
2. 清祓の儀(排気): 魔法のファンを使い、地中の可燃性ガスを安全に空中へ逃がし、燃焼処理する。
3. 鎮地(固化): セメントミルクを地中に噴射し、攪拌する。
固化材を混ぜることで地盤の粘着力を強制的に跳ね上げ、精霊(土圧)を黙らせる。
「おお……大地から吹き出していた毒の煙が止まった!? それに、あの不吉な地鳴りまで……!」
ガラムをはじめとする民たちが、魔法のような光景に跪く。
「これは魔法じゃない。大地の『粒子』と対話し、手を取り合った結果だ。族長、あんたが守りたかったのはこの『平穏』だろ?」
数時間後、工事予定地の地盤は、岩盤のように強固な「改良体」へと姿を変えていた。
ガラムは俺の差し出した右手を、力強く握り返した。
「……認めよう、一ノ瀬 聖。お前は、我らよりも深く大地の声を聞く者だ。この地を汚す者ではなく、この地を『盤石』にする者だとな」
「分かってくれりゃいい。……よし野郎ども、トラブル解決だ! 族長から『最高級の香辛料』の差し入れをもらったぞ! 今夜のBBQはカレーだ!」
「「「「やったぜえええ!!!」」」」
「一ノ瀬様、またしても知恵で難局を乗り越えましたわね。……でも、カレーを作る前に、私とガラム族長の娘さんの『親睦会』への同席をお願いしますわ?」
エレナがいつもの鋭い眼光で俺を見つめる。
「……あ、ああ。工程会議の後に伺うよ」
新大陸の住人の信頼を勝ち取り、ついに基礎は整った。
次は、この熱い大地の上――遥か上空に浮かぶ、『空中重力制御都市』の着工だ。
今回の建築用語解説
• 地鎮祭: 工事の無事を祈る儀式。本作では科学的根拠に基づいた地盤改良として描かれた。
• サウンディング試験: ロッド(鉄の棒)を地面に突き刺し、地盤の硬さを調べる試験。
• 攪拌: 複数の材料(土とセメントなど)をかき混ぜて均一にすること。
• 土圧: 土が構造物を押す力。これをコントロールできないと建物は崩壊する。
• 盤石: 極めて堅固なこと。土木・建築の究極の目標の一つ。
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