旅立ち
朝からジェシカは複雑な気持ちだった。
これから始まる学園生活に期待が高まるも父の魔窟発言や護衛として十兵衛が同じ新入生として同じ学校に入学する事があまり嬉しくなかった。
数少ないアメル商会のエージェントはハッキリ言ってエリートである。
しかしそのエージェントの中で十兵衛は1,2を争うほど苦手な人間だった。
もちろん同じ歳なので仲良くしようとした事があるが十兵衛は父であり、会長でもあるオルバ=アメルには忠誠を誓っているが自分には一切興味がないような感じがして近づきにくかった。
そして1度見た彼の暴力的な装魔術は今でも脳裏に焼き付いている。
「行ってきます。」
父に別れの挨拶を済ます。
「頑張るのもいいが辛かったらいつでも帰ってきなさい。」
父が温かい目でそう答えた。
玄関を開けると黒髪に三つ編み、眼帯に右手の指先まで包帯でぐるぐる巻きにしている異様な風貌の十兵衛が立っていた。
「よ…よろしく…」
自らの金髪をくるくると弄りながらたどたどしく挨拶をすると。
「こちらこそ宜しくお願い致します。」
礼儀正しくお辞儀した。
ジェシカは少し考えた後、十兵衛に提案した。
「十兵衛。これから同じ学校の学生じゃない。付き人枠でもないから今後は敬語禁止しない?」
この提案には2つの意図があった。
1つは試験会場を半壊させる程の力を持った十兵衛に敬語で話されると同級生からは恐れられる可能性が高いこと。
もう1つはやはり同い年なのでこれを機に十兵衛と仲良くなりたい。
そう思っていた。
「了解しました。あ…いえ…了解っす。」
なんとか善処しようとしている十兵衛を見て話せばわかる人かもとジェシカは思ってきた。
馬車に乗り込み道を走るとベゼスダ方面とは反対に馬車は走りだした。
「方角違くない?」
ジェシカがそう不安がると。
「領主様のご令嬢もご入学なさるのでご一緒になるとのことですよ…です…」
十兵衛の答えにあんた早く慣れてよと少し笑いながら領主邸を目指した。
領主邸に着くなり手を振っている女性がいた。
「十兵衛ちゃーん‼︎」
明るい茶色の髪に眼鏡を掛けている女性が声をだした。
ルミーナ=フェルナンド、領主の娘である。
何故ちゃん付けかというと最初は様付けだったが十兵衛が嫌がったためである。
馬車から出ると銀髪で背が高くとても同い年とは思えない大人びた女性が対応した。
「ジェシカ=アメル様。本日はご同行の許可を頂き、誠に有難うございます。」
まるでルミーナの付き人枠で入学するアマンダ=ローレンスがお辞儀した。
自分は何も知らされていなかったので少し戸惑ったが笑顔で応えた。
「いえ。みんなで行ったほうが楽しいでしょ。」
ジェシカはルミーナと共に領主であるビエリ=フェルナンドに挨拶に行った。
帰ってくるとアマンダと十兵衛が楽しそうに話している。
十兵衛もあんな楽しそうにするんだなーって思っていたら近くにドス黒い殺気を感じた。
その殺気に十兵衛とアマンダが反応するが視線の先にはキョトンとしたルミーナしかいなかった。
ルミーナとアマンダを乗せてフェルナンド領を離れていく。
同じ学校に知り合いであるルミーナやアマンダが入学する事に頼もしさを感じながら国立装魔術学園ベゼスダを目指すのであった。