道中
残酷描写があります。
苦手な方はご注意願います。
『いやマジでなんなんだよ…罠か?罠なのか?』
十兵衛は心の中で叫んだ。
ジェシカの敬語禁止の提案に狼狽えていた。
「十兵衛さんどうされました?」
隣で一緒に馬車の手綱を引いていたアマンダが十兵衛に問いかけた。
十兵衛はアマンダに相談しようか悩んだ。
アマンダとは仕事で何度か会っている。
むしろ一緒に仕事したことさえあるのでこの中で1番気軽に話しかけられる。
ジェシカは雇い主の娘だからという訳ではなく純粋に関わる機会があまりない。
気の強いじゃじゃ馬娘という印象が強いからか面倒くさそうなイメージしかない。
ルミーナはよくわからんが自分に懐いている。
自分の何処にそんな要素があるか検討皆目をつかないが別に害はないので放置している。
「いや別にないけど…」
アマンダの問いかけにそう答える。
すると後ろの馬車からジェシカが大声を出す。
「なんで敬語禁止の提案をした私にはまだ敬語でアマンダには気軽に話してるのよ‼︎」
『いやいやいや。お前よりアマンダの方が関わっている時間が長いわ』と十兵衛は心の中で叫んだ。
「いやそうですか?全然気がつきませんでした。」
そう答えるとすかさずアマンダとジェシカからソレだよと突っ込まれた。
「ねぇアマンダ。私、1度馬車を引いてみたかったの。代わってもらえる?」
ルミーナの一言でアマンダは困惑しながら交代した。
途中の街で宿を取りながらベゼスダを目指した。
基本的にジェシカとルミーナ、アマンダは3人一緒の部屋に泊まってもらい十兵衛は馬車で過ごした。
それは十兵衛が体質のせいで一睡もできないからだ。
フェルナンド領を出て3日目の午後、細い岩山の山道を通っている時に前方に複数の男達がいきなり現れた。
どうやら新入生を狙った山賊らしい。
「オラァ‼︎従者はおとなしくしろやぁ‼︎」
「馬車にいる奴は降りてこいやぁ‼︎」
山賊が脅しかける。
そこに2人の山賊が前に出てきた。
「俺たちはシン・ブラザーズ。少しは名前を聞いたことあるだろう?」
シン・ブラザーズは手配書で見たことがある。
レベル3の装魔術士の兄弟で息のあったコンビネーションで敵を倒し、数々の犯罪に手を染めていた。
「我、神剣を授かりし鬼神也 【大嶽丸】」
「我、極寒の暴風を纏し屈強な風神也 【北風ノ暴風】」
「我、全ての叡智を授かりし知恵者也 【小サナ鍵】」
「我、生命を司る神木の大樹也 【生命ノ木】」
4人は馬車から降りるなり解呪を唱えて装魔を展開した。
十兵衛のジパング刀型の装魔【大嶽丸】
アマンダの大弓型の装魔【北風ノ暴風】
ジェシカのダガー型の装魔【小サナ鍵】
ルミーナの大杖型の装魔【生命ノ木】
一斉に展開した装魔に山賊があっけにとられる。
その隙にルミーナが【生命ノ木】のアビリティである樹海降誕を発動させる。
ルミーナの周りから勢いよく様々な木が地面から伸びていく。
木が山賊に絡むと山賊は木に覆われて身動きが取れなくなっていた。
シン・ブラザーズは自分達も装魔を展開させて襲いくる樹木を斬り伏せて回避した。
岩山の山道が一瞬で樹海に変わった。
生い茂る木々の中から呪文が聞こえる。
「出でよ サラマンダー」
「薙ぎ倒せ ストームアロー」
ジェシカとアマンダが呪文を唱えて魔術を発動させる。
樹海の中から燃え盛る体と髪を持つ女戦士が現れる。
ジェシカの召喚魔術であるサラマンダーだ。
サラマンダーの後ろから嵐と間違えるような怒涛の風属性の魔術で出来た矢が降り注ぐ。
これはアマンダの魔術であるストームアロー。展開した魔法陣に魔術でできた魔法の矢を当てることで一本の魔矢が五十本に増えて敵に襲いかかる。
嵐のような攻撃とサラマンダーの攻撃を必死で凌ぐシン・ブラザーズ。
「なんなんだよこいつら…」
襲いくる怒涛の攻撃を躱しているのは流石レベル3の装魔術士だろう。
しかし相手はレアな召喚魔術を発動している。
なかなか反撃に移れないでいた。
兄弟が襲う相手を間違えたかもと考え始めた瞬間、それが確信に変わった。
恐ろしい殺気と共に頭に角が生えた人外の鬼が一瞬視界に入った。
次の瞬間には兄弟の頭と体が離れていた。
山賊シン・ブラザーズ一味の襲撃は兄弟の死をもって失敗に終わった。
それによって樹海降誕で捕らえられていた他の山賊達は全員が戦意喪失した。
近くの町で憲兵に山賊を引き渡した十兵衛達はその2日後に無事に国立装魔術学園ベゼスダにたどり着いたのだった。




