↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫系男子と名探偵  作者: ひだまり
水族館
PR
9/39

9

「クラゲが好きなんですか?」


 零がクラゲの水槽を眺めながら静に尋ねた。

 静は少し考えるようにクラゲを見つめ、それから首を横に振った。


「好きではないです」


「え?」


 予想外の言葉に零がとまどう。

 静は水槽の中を漂うクラゲを眺めながら、淡々と続けた。


「ただ、クラゲには感情があるのか、それが気になって眺めていました」


「感情……ですか?」


「はい」


 静が零のほうへ身体を向ける。

 青い水槽の光が二人の顔を淡く照らした。


「嬉しいとか、悲しいとか。そういうものをクラゲは感じているのかと思って」


 零はしばらく静の顔を見つめた。

 相変わらず、考えていることがよく分からない人だ。

 けれど、そんなところが妙に静らしいと零は思う。


「クラゲに感情があるかどうか…私は考えたこともないです」


 零が小さく笑う。

 すると静は、何か思いついたように手を差し出した。


「これから、一緒に見てまわりませんか?」


「え?」


 突然の誘いに、零は目を瞬かせる。

 静の差し出した手を見つめ、それから静の顔を見る。


「あの…、てっ…手をつなぐんですか?」


「嫌ですか?」


「…嫌じゃ…ないです…」


 零は少し戸惑いながら、静の手を取った。

 その瞬間__。

 静が零の手をつなぎなおし、恋人繋ぎする。


「ちょっとまっ…!」


 零が慌てて手を離す。

 顔が真っ赤になっている。


「なんですか?」


 静は不思議そうに首を傾げた。


「手をっ……つなぐにしても、そのつなぎ方は……!」


「普通につないだだけですが」


「普通じゃありません!」


 零は赤くなった顔を隠すように視線を逸らした。

 静はしばらく零を見つめていたが、やがて小さく頷く。


「……わかりました」


「本当に分かってます?」


「たぶん」


「たぶんって……」


 零は呆れながらも、思わず笑ってしまった。

 二人の間に、穏やかな空気が戻ってくる。

 その向こうでは、クラゲたちが何事もなかったかのように、静かに水槽の中を漂っていた。


 ♢


 館内をしばらく歩いた二人は、やがて巨大な水槽の前へたどり着く。

 天井近くまで届くほど大きな水槽の中を、色とりどりの魚やエイがゆっくりと泳いでいる。青い照明が周囲を包み込み、水槽の中で揺れる光が床にまで淡く反射していた。


 その水槽の正面には、二人掛けのハート型のソファーが置かれていた。

 どう見てもカップルシートだと零は思う。

 静は何の迷いもなく、そのソファーへ腰を下ろした。


「……」


 零は赤面し、静が座っているソファーから少し離れた場所に立ったままうつむく。

 しばらくして、ふと、周囲の視線に気づいた。


「?」


 何人かの来館者が、静のほうを見ている。

 その中には、大学生くらいに見える女性二人組もいた。


「ねえ、あの人……」


「すごくかっこいいよね」


 二人は小声で話しながら、ちらちらと静を見ている。


「写真撮ってもらおうよ」


「うん」


 二人は意を決したように静のほうへ近づいていった。

 零はその様子を横目で見ながら、少しだけ苦笑する。

 

 確かに静は目立つ。

 茶髪に整った顔立ち。白いシャツというシンプルな服装なのに、不思議と人目を引く雰囲気がある。

 女性たちは静の背後まで近づくと、遠慮がちに声をかけた。


「あの…、すみません」


「……」


 返事がない。


「あの、写真撮ってもらってもいいですか?」


 それでも静は動かなかった。

 女性二人が顔を見合わせる。


「?」


 零は不思議に思い、少し離れた場所から静の顔を覗き込んだ。


 ___!?


「……寝てる?」


 静はソファーに座ったまま、目を閉じていた。

 どうやら水槽の光と静かな館内の雰囲気に包まれ、いつの間にか眠ってしまったらしい。


 零に続き、女性二人も静の寝顔を覗き込む。


「……寝てる」


「寝顔もかっこいい…」


 二人とも、頬を赤くする。

 静かな寝息を立てながら眠る静の姿は、普段の気だるげな雰囲気とはまた違っていた。

 零はそんな二人を見て、思わずため息をつく。


「もう……」


 それから眠っている静を見る。


「こんなところで寝るなんて…」


 巨大な水槽の中では、魚たちがゆっくりと泳ぎ続けている。

 その幻想的な光景の前で、静だけが何も知らずに眠っていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。