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「ちょっと確認させてください」
零はそう言うと、敦が持っていたデジタルカメラに手を伸ばす。
「……」
敦は抵抗することなく、俯いたままカメラを零に渡した。
零はカメラの電源を入れ、保存されている画像を確認した。
一枚目。
図書館の中で、本を読んでいる静の姿。
二枚目。
駅のホームで電車を待っている静。
三枚目。
コンビニから出てくる静。
さらにページを進める。
街中を歩いている姿。遠くから撮影された横顔。信号待ちをしているところ。喫茶店で一人で過ごしているところ。
どの写真にも、静が写っていた。
しかも、かなり遠い場所から撮影されたものまである。
零の表情が次第に険しくなっていく。
「……これは、ひどい」
単なる偶然の撮影ではない。
これほど大量の写真が残されているということは、敦が何度も静を追いかけていたことを意味していた。
零はカメラから顔を上げ、敦を見る。
敦は顔を伏せたまま、震える声で呟いた。
「妻に知られたら、喧嘩になるだけじゃない…、会社にまで影響が……」
経営者である敦にとって、この行動が明るみに出れば、家庭だけでなく社会的な信用まで失う可能性がある。
敦の目には、涙が浮かんでいた。
零はしばらく黙っていた。
探偵としては、依頼人である花に事実を伝える必要がある。
しかし、いま目の前にある状況を考えると、どう伝えるべきか慎重に考える必要があった。
やがて、零は小さく息をはいた。
「……わかりました」
敦が顔を上げる。
「奥さんには、可愛い子を見つけてはその女性の後をつけていた、と話します」
敦の表情が少しだけ緩んだ。
「本当ですか?」
「はい。ただし__」
零はカメラを敦へ返した。
「条件があります」
「条件?」
零はコートのポケットから一枚の書類を取り出した。
最初からあらゆる可能性を考えて、念のため用意していた誓約書だった。
零はその場で必要な内容を書き加える。
そして敦へ契約書を差し出した。
「いままで撮った斎藤さんの写真を全て消去し、もう二度と、彼をつけたり、盗撮したりしないこと」
敦は契約書を見つめた。
「その誓約書にサインしてください」
と零が敦にペンを手渡す。
「……わかりました」
敦は震える手でペンを受け取った。
「約束します。もう、彼を追いかけません」
そう言って、誓約書に署名する。
零は内容を確認し、静かに頷いた。
そのときだった。
少し離れた場所から、静の声が聞こえてきた。
「終わりましたか?」
零と敦が同時に振り返る。
そこには、穏やかな表情を浮かべた静が立っていた。
「斎藤さん…」
零は思わず苦笑する。
「まぁ、とりえず一件落着です」
「そうですか」
静はそれだけ答えると、再び水槽へ視線を向けた。
青い光の中で、クラゲがゆっくりと漂っている。
まるで先ほどの騒動など、最初から存在しなかったかのような静かな光景だった。




