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猫系男子と名探偵  作者: ひだまり
水族館
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7

「ちょっと確認させてください」


 零はそう言うと、敦が持っていたデジタルカメラに手を伸ばす。


「……」


 敦は抵抗することなく、俯いたままカメラを零に渡した。

 零はカメラの電源を入れ、保存されている画像を確認した。


 一枚目。

 図書館の中で、本を読んでいる静の姿。

 二枚目。

 駅のホームで電車を待っている静。

 三枚目。

 コンビニから出てくる静。


 さらにページを進める。


 街中を歩いている姿。遠くから撮影された横顔。信号待ちをしているところ。喫茶店で一人で過ごしているところ。

 どの写真にも、静が写っていた。

 しかも、かなり遠い場所から撮影されたものまである。

 零の表情が次第に険しくなっていく。


「……これは、ひどい」


 単なる偶然の撮影ではない。

 これほど大量の写真が残されているということは、敦が何度も静を追いかけていたことを意味していた。

 零はカメラから顔を上げ、敦を見る。

 敦は顔を伏せたまま、震える声で呟いた。


「妻に知られたら、喧嘩になるだけじゃない…、会社にまで影響が……」


 経営者である敦にとって、この行動が明るみに出れば、家庭だけでなく社会的な信用まで失う可能性がある。

 敦の目には、涙が浮かんでいた。

 零はしばらく黙っていた。


 探偵としては、依頼人である花に事実を伝える必要がある。

 しかし、いま目の前にある状況を考えると、どう伝えるべきか慎重に考える必要があった。

 やがて、零は小さく息をはいた。


「……わかりました」


 敦が顔を上げる。


「奥さんには、可愛い子を見つけてはその女性の後をつけていた、と話します」


 敦の表情が少しだけ緩んだ。


「本当ですか?」


「はい。ただし__」


 零はカメラを敦へ返した。


「条件があります」


「条件?」


 零はコートのポケットから一枚の書類を取り出した。

 最初からあらゆる可能性を考えて、念のため用意していた誓約書だった。

 零はその場で必要な内容を書き加える。

 そして敦へ契約書を差し出した。


「いままで撮った斎藤さんの写真を全て消去し、もう二度と、彼をつけたり、盗撮したりしないこと」


 敦は契約書を見つめた。


「その誓約書にサインしてください」

 と零が敦にペンを手渡す。


「……わかりました」


 敦は震える手でペンを受け取った。


「約束します。もう、彼を追いかけません」


 そう言って、誓約書に署名する。

 零は内容を確認し、静かに頷いた。

 そのときだった。

 少し離れた場所から、静の声が聞こえてきた。


「終わりましたか?」


 零と敦が同時に振り返る。

 そこには、穏やかな表情を浮かべた静が立っていた。


「斎藤さん…」


 零は思わず苦笑する。


「まぁ、とりえず一件落着です」


「そうですか」


 静はそれだけ答えると、再び水槽へ視線を向けた。

 青い光の中で、クラゲがゆっくりと漂っている。

 まるで先ほどの騒動など、最初から存在しなかったかのような静かな光景だった。




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