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猫系男子と名探偵  作者: ひだまり
雨の日
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4/39

4

 しばらくすると、雨音と穏やかなBGMに包まれた部屋の中で、零の瞼(まぶた)が少しずつ重くなっていった。

 慣れない状況に緊張していたせいか、疲れが一気に押し寄せてきたらしい。零はソファに座ったまま、何度か小さく欠伸(あくび)をする。

 静はそんな零の様子に気づくと、少し考えてから話し始める。


「今晩、泊まっていきます?」


「えっ?」


 零が顔を上げた直後、静が零の肩に手を置き

「僕はどちらでもかまいませんよ?」

 と言った。


「まっ……!」


 突然のことに、零は慌てて姿勢を正す。


「待ってください!とっ泊まるだなんて、そんな……」


 零は気まずそうに静へ背を向けた。

 静は不思議そうに首を傾げる。


「なにか問題でも?」


「……着替えもないですし、今日は帰ります…」


 零は赤くなった顔を隠すように俯いた。

 すると静が、ふと思い出したように口を開いた。


「零さん」


「はい…」


「さっき、あなたの肩をもって思ったんですが…」


「なんですか?」


「あなた、百万円の抱きまくらに似てます」


「は???」


 零は思わず静の方を見た。

 静があごに手をあて、話を続ける。


「先日、寝具店で百万円の抱き枕を試しに使ってみたんです。その時の抱き枕に……、感触が…似てました」


「抱き枕…?」


「ええ」


「寝る時に使う枕のことですよね?」


「はい。正しくは、腕や脚をからませて抱きしめるように使う、1メートル前後の大型の寝具、クッションのようなものです」


 零はしばらく静の顔を無言で見つめた。

 そして、みるみる顔を赤くする。


「人をそんなものに例えないでください…!!」


 ♢


 しばらくすると、激しく降り続いていた雨が次第に弱くなっていった。窓の外で鳴っていた雷も遠ざかり、やがて完全に聞こえなくなる、静かな夜が戻ってきた。


 零は窓の外を確認すると、ほっと息を吐いた。


「……雷、止んだみたいです」


「それはよかった」


 静が窓の外へ目を向け言った。

 零は手に持っていたケースに入ったイヤホンを、静へ差し出した。


「これ、ありがとうございました。返します」


「あぁ。それ、差し上げます」


「え?」


 零が驚いたように目を丸くする。


「でも……」


「傘を差してくれたお礼です」


 静はいつもの淡々とした口調で言った。

 零は手の中にあるイヤホンを見つめる。新品だったことを思い出し、本当に受け取っていいのか迷った。

 けれど、静の表情は変わらない。


「……では、お言葉に甘えて」


 零は素直にイヤホンを受け取った。


「ありがとうございます」


「どういたしまして」


 静は玄関まで零を見送った。

 零は靴を履き、玄関に置いてあった傘を持って、扉の前で振り返る。


「では…、また」


「はい。お気をつけて」


 静が小さく手を振る。

 零も一度頭を下げると、玄関の扉を開けた。

 やがて扉が静かに閉まる。

 一人になった静は大きなあくびをし、やがて部屋の中へ戻っていった。


 一方、静の自宅を出た零は、手の中のイヤホンを見つめながら歩いていた。

 雨上がりの夜道には、濡れたアスファルトが街灯を反射している。さっきまでの激しい雷雨が嘘だったかのように、街は静まり返っていた。


 零はイヤホンをそっと握りしめる。

 胸に手を当てると、心臓はまだ落ち着いていなかった。


「……連絡先、聞いとけばよかった…」


 零は小さく呟く。

 静との出来事を思い返すたびに、また胸が騒がしくなる。


 雨は止んだ。

 雷も止んだ。

 それなのに__零の心臓だけは、いつまでも静まってくれそうになかった。



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