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猫系男子と名探偵  作者: ひだまり
朝日零と斎藤静
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 シャワーを浴び終えた零は脱衣所にあった部屋着に袖を通した。

 タオルで髪を拭き、ドライヤーのスイッチを入れる。

 温かな風が髪を揺らす。

 その瞬間、ふと以前のことを思い出した。


 静の家で、彼に髪を乾かしてもらった夜。

 あの時の静の優しい手つきと、落ち着いた声が蘇る。


「……」


 零の胸が苦しくなる。

 髪を乾かし終えた零は、ドライヤーを置いてリビングへ戻る。


「……斎藤さん?」


 先ほどまで起きていた静が、ソファに身体を預けて眠っていた。

 零は足音を立てないよう、そっと近づく。

 静かな寝息。

 いつもは落ち着いていて大人びて見える静が、眠っているとどこか無防備で、年相応に見えた。

 零はしばらく、その寝顔を見つめる。


(……可愛い…)


 声には出さず、心の中で呟く。

 もう少しだけ見ていたい。

 そんな気持ちになり、零はソファのそばにしゃがみ込んだ。


 そのとき――。

 静のまぶたがゆっくりと動いた。


「……ん」


 目が開く。

 そして、すぐ目の前にいる零と視線が重なった。


「……零さん?」


「!」


 零は驚いて固まった。

 静はまだ眠そうな目で零を見つめていた。


 零はソファに座っている静の隣に腰を下ろした。

 先ほどまで静の寝顔を見ていたせいか、まだ胸の鼓動が落ち着いていない。

 静はしばらく何かを考えるように黙っていた。そして、静かに話し始める。


「零さん」


「はい」


 二人の視線が合う。


「あなたに、言っておかないといけないことがあります」


 すぐ隣にいる男性の言葉に、零の心臓がまた大きく跳ねた。

 静は一度、息を呑み、語り始める。


「僕は…相手が誰であれ、緊張したり、顔が赤くなったりすることがありません」


「……」


 零は静の言葉を黙って聞いていた。


「誰かと一緒にいても、そういう感情になったことがありません。言ってみるなら、恋愛感情を持てない人間…、そう理解していただければ助かります」


「……恋愛感情を持てない…」

 零は小さく呟く。

 

 静の言葉に胸の奥が、少しだけ痛んだ。

 それでも零は、静が自分に嘘をつかず、正直に話してくれたことが嬉しかった。

 長い沈黙が流れる。

 窓の外では、雨がまだ静かに降っていた。


 零は膝の上で手を握りしめる。

 そして、ゆっくりと顔を上げた。


「私は…」


「?」


「私は、斎藤さんが好きです」


 静の目がわずかに見開かれる。


「ドキドキしてくれなくても構いません」


 零は震える声を抑えながら続けた。


「今すぐ答えを出してほしいとも思っていません」


「……」


「ただ……私の気持ちは、ちゃんと知っておいてほしいんです」


 零は静をまっすぐ見つめた。

 自分の気持ちを言葉にした瞬間、胸の奥に溜め込んでいたものが、少しだけ軽くなった。

 静はすぐには答えなかった。

 ただ、零の言葉を受け止めるように、静かに彼女を見つめていた。





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