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突然、裏口のほうから足音が聞こえてきた。
やがてリビングに入ってきたのは、先日、零がバーで出会った金髪女性だった。
響の部下であろうその女性は、金髪のロングヘアに、グラマラスな体型。身体のラインがはっきりと出るタイトな服を着ている。
女性は響の前まで歩いてくると、床に静かに片膝をついた。
「響様、ただいま到着いたしました」
「ああ」
響は短く答える。
零は驚いたまま女性を見つめた。
バーで入れ墨の男と一緒にいた女性…、しかし、バーで見た時とは雰囲気が違う。
響はソファに腰掛けていた月へ視線を向け
「月。こっちへ来い」
と手招きする。
「さっきまで月先生って呼んでたくせに…」
そう不満を漏らしながら、月が立ち上がり響のそばへ歩いてくる。
どこか威圧感のある眼鏡の男性の前に立つ月。
「月、よく聞け」
響が月の肩に手をおき、話し始める。
「この先、お前には俺が社長を務める会社の専属作家として活動してもらう」
「はぁ??」
月が眉をひそめる。
「前の事務所に話は通してある。心配する必要はない」
「……別に心配なんてしてないけど」
そう言って月はしばらく響を見る。
そして、響の前で片膝をつく、金髪女性へ視線を移した。
「で、この人が私の新しいマネージャーってわけ?」
月が女性を指差す。
女性はゆっくり立ち上がる。
そして月へ深々と頭を下げた。
「はじめまして、月先生」
そう言って顔を上げ、穏やかに微笑む。
「私は桜井咲子と申します。これからよろしくお願いいたします」
「……」
月は咲子をじっと見つめる。
そして――。
「女性マネージャーなんてイヤ!」
月が女性を切り捨てるように言った。
「イヤ……ですか」
咲子が固まる。
零も思わず目を丸くする。
響は額に手を当て、深いため息をついた。
そして、月の顔をじっと見つめた。
「月」
「なによ」
「お前が夜に眠れないのは、悪夢を見るからだろう?」
月はしばらく黙っていたが、小さく頷いた。
「そうよ」
響は静かに息を吐く。
「お前に必要なものは何なのか、ずっと考えてきた…」
月が顔を上げる。
「で、ようやく分かったんだ」
「なに?教えて」
響は月の肩にそっと手を置いた。
「お前と一緒に寝てくれる…、母親だ」
「……母親…」
月の瞳が揺れる。
思いがけない言葉に、胸の奥が締めつけられるようだった。
目の端に、わずかに涙が浮かぶ。
「……ママ……」
その言葉を口にすることさえ、月にとっては久しぶりだった。
響が月を優しく抱き締める。
「だから、桜井をお前のマネージャーとして側に置くことにした」
「……」
「月が眠れないときは、添い寝してやってくれ」
桜井はすぐに頭を下げた。
「承知しました」
月は何も言わなかった。
ただ、涙をこらえるように俯いている。
響はそんな月を一度だけ見つめると、テーブルの側にいた零に声をかける。
「朝日さん、私と一緒に来てください。お話があります」
「話ってなんですか?」
零が響の方へ歩み寄る。
男が彼女の手をとり、そのまま玄関へ向かう。
「ちょっとあんた達、どこに行くのよ?」
月が慌てて玄関へ向かう。
響は振り返った。
「静の家に行ってくる」
「話したいことがあるなら、電話で話せばいいじゃない」
「静と直接会って話がしたいんだ」
そう答えると、響は零を連れて玄関から出ていった。
残された月は、しばらく閉じた玄関を見つめていた。
隣では、桜井が静かに月の様子を見守っていた。




