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猫系男子と名探偵  作者: ひだまり
朝日零と清水月
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 喫茶店を出た零は、しばらく街を歩いていた。

 大通りを避け、静かな路地裏へ入る。


「……斎藤さんに直接、話を聞くのもなぁ…」


 零は小さく呟いた。

 本人に尋ねれば早い。

 けれど、それによって静との関係が悪くなるのを零は恐れていた。

 

 鞄から、西田から渡された写真を取り出す。


「清水月さん…か…」


 銀髪の女性の写真を見つめながら歩いていると――。

 ふと、視界の端に人影が入った。


「ん?」


 零が影の方向に目をむける。

 少し先を歩いている女性。

 白いスーツ姿。

 赤いハイヒール。

 そして、腰まで伸びた銀色のロングヘア。


「!!!」


 零は足を止めた。

 慌てて写真を確認する。

 写真の女性と、視線の先にいる女性を見比べる。


 髪。

 顔。

 雰囲気。

 間違いない。


「本人だ…」


 零の胸が少し高鳴った。

 まさか、こんなところで見つけるとは思わなかった。

 月は零の存在に気づくことなく、路地の奥へと歩いていく。

 零は写真を鞄へしまう。

 そして、一定の距離を保ちながら、女性のあとを追い始めた。


「……」


 零は足音をできるだけ立てないようにする。

 月が何処へ向かっているのか。

 誰と会うのか。

 そして――。

 斎藤静との関係は、一体どんなものなのか。

 零は慎重に清水月の後を追っていった。


 ♢


 しばらく月のあとを追っていると、開けた広場へ出た。

 零は月から少し離れた場所で足を止める。


「あれは…誰だろう?」


 月の前に、一人の男性が現れた。

 二十代半ばくらいだろうか。赤い短髪にラフな格好。どこかチャラい印象を受ける青年だった。

 二人はその場で親しげに言葉を交わし始める。


「……知り合いかな?」


 零は物陰から二人の様子をうかがった。

 やがて二人は並んで歩き始め、広場に面したカフェへ入っていく。

 零も少し時間を空けてから店内へ入った。


 零は二人から離れた一人席を選び、背を向けるように座る。

 飲み物を注文し、さりげなく二人の様子を確認した。

 月と赤髪の男性は、テーブル席に向かい合って座っていた。


 男性が楽しそうに何かを話している。

 月は飲み物を口に運びながら、静かにその話へ耳を傾けていた。

 時折、男性が照れたように月から視線を逸らす。


「……」


 零はその様子を観察する。

 (――あの男性、清水さんに気があるのかな)

 少なくとも、ただの知人に向ける態度には見えなかった。


 男性とは対照的に月は落ち着いているように見える。

 相手をからかうこともなければ、不機嫌になる様子もない。男性が話せばきちんと聞き、時折、小さく微笑んでいる。

 零はコーヒーカップに口をつけながら、西田の言葉を思い出した。


『月先生は、気性がとても荒いので……』


「……」


 もう一度、月を見る。

 写真で見たときと同じ、儚げで整った容姿。

 大人しい雰囲気。

 落ち着いた立ち振る舞い。

 目の前にいる彼女からは、とても『気性が荒い』という印象は受けなかった。


「……西田さん、大げさに言ってたんじゃ……」

 零は小さくつぶやいた。


 ♢


 カフェを出ると、月と赤髪の男性は広場の中央で足を止めた。


「じゃあ、またな」

 男性が月に言った。


「ええ。また」

 月は微笑み、赤い髪の男性へそっと近づく。


 二人を遠くから見ていた零が目を細める。

 月は男性の頬にそっと手を触れて、そのまま頬にキスをした。


「!」


 男性が驚く。

 そのまま月は、赤髪の男性の頭を優しく撫でた。


「また連絡するわ」


「……お、おう」


 男性の顔が一気に赤くなる。

 明らかに照れていた。


「…なに?いまの…」


 その光景を見ていた零は、思わず目を見開いた。


「もしかして…、二人は付き合ってるとか?」


 零の胸の奥がざわつく。

 もしそうなら――。

 月と静は、恋愛関係ではないのかもしれない。

 そう考えると、すっと胸の奥が軽くなった。


 月は赤髪の男性と別れると、一人で歩き始めた。

 零は月から少し距離を取ってその後を追う。

 やがて月が自宅であろう一軒家の玄関の扉を開け、家の中へ入っていった。


「あれが、月さんの家…」


 零は向かい側の建物の陰から様子をうかがう。

 それからしばらく待ったが、月が再び外へ出てくる様子はなかった。

 スマホの時計を見る。

 時刻は午後1時を回っていた。


「夕方、また来てみようかな……」

 零はそう呟き、一度その場を離れることにした。



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