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猫系男子と名探偵  作者: ひだまり
朝日零と清水月
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26

 ある日の朝。

 喫茶店の窓際の席に、西田幸太郎(にしだこうたろう)と朝日零(あさひれい)が向かい合って座っていた。


 西田は30歳くらいの長身の男性。黒髪に黒縁メガネ、きっちりとしたスーツ姿で、いかにも真面目そうな雰囲気をしている。

 切れ長の目が特徴的で、クールな印象だが、物腰は柔らかで落ち着いた話し方をする男だった。


 零は黒髪のセミロングに白いシャツとコート、ズボンという服装だった。

 

 零は西田から手渡された依頼書に目を通し、確認する。


「依頼内容は、ホラー作家の清水月(しみずつき)さんが、たびたび会っている謎の男性について調べ、二人の関係性を調査してほしい、という内容でよろしいでしょうか?」


「はい。月先生のマネージャーとして、色々と把握しておきたいので、些細なことでも

 教えていただけると助かります」


「わかりました。では、その男性について、名前や顔が分かる写真などはありますか?」


「名前はわからないですし、写真もありません…」


 西田は少し考えてから続けた。


「ですが、その男性はあなたの友人かと……」


「え?」

 零が顔を上げる。


「以前、水族館であなたとその男性が一緒にいるところを見かけたので…。

 茶髪の20代くらいの男性です」


 零の頭の中に、一人の男性の顔が浮かんだ。


「まさか……謎の男性って、斎藤さんのことですか?」


「…はい、おそらくその方かと…」

 と西田は静かに頷いた。


「……そんな」


 零は驚いたように呟き、依頼書へ視線を落とす。

 清水月という女性について、零は何も知らない。

 会ったこともなければ、話したこともない。

 零は個人的に彼女と静の関係性を知りたい、そう思った。


 西田が言いにくそうに零に訊ねる。


「あの、もしかして斎藤という男性と朝日さんは友人ではなく恋人…」


「友人です!」

 そう言って零は依頼書を閉じて、話を続ける。


「少し心苦しいですが、斎藤さんと清水さんがどういう関係なのか、調べてみます」


「お願いします」


 西田は頭を下げた。

 零はコーヒーを一口飲みながら、静かに考える。


(斎藤さんと、ホラー作家の女性。

 自分の知らないところで、斎藤さんはいったいどんな時間を過ごしているのだろう)

 その疑問が、妙に胸に引っかかっていた。


「あの、月先生の写真はあるので、本人だと確認できるよう、写真を渡しておきます」

 西田はそう言って、持ってきた写真を零へ差し出した。


「ありがとうございます」


 零は写真を受け取り、目を落とす。

 インタビュー雑誌の切り抜きの写真。

 そこに写っていたのは、20代前半くらいの若い女性だった。


 銀色の長い髪。

 色白の肌。

 整った顔立ち。

 どこか儚げで、近寄りがたい雰囲気をまとっている。

 真っ白なスーツ姿で立つ姿は美しく、写真越しでも強い存在感を放っていた。


「……綺麗な人ですね」


 零は思わず呟いた。

 写真を見つめているうちに、胸の奥が少しだけ重くなる。

 もし、この女性が静に想いを寄せているのだとしたら。

 自分には敵わない。

 そんな考えが、自然と浮かんでしまった。


「……」


 零は写真から目を逸らす。

 静の隣にこの女性がいる姿を想像すると、妙に胸がざわついた。


「ひとつ聞きたいのですが」


 零は写真を机の上へ置き、西田を見る。


「清水さんは、斎藤さんのことをあなたに話したりしないんですか?」


「ええ」


 西田は困ったように眼鏡を押し上げた。


「一度、その男性について先生に聞いてみたことがあるんですが……」


「どうでした?」


「首を絞(し)められました」


「くっ、首を絞められた??」


「はい。かなり怒られまして…」


 西田は苦笑する。


「そういうこともあり、先生の前で男性の話はしないようにしています」


「なるほど……」


「あの、朝日さんは、男性から月先生のこと、何も聞かされていないのですか?」


「はい。まだ彼とは数回しか会っていないので、プライベートの話はあまりしていないんです」


「そうなんですね」


 零は写真をもう一度見る。

 大人しそうな銀髪の女性。

 同じ女性である零から見ても、魅力的な雰囲気の女性だった。


「……」


 零は写真をそっと裏返した。

 胸の奥に、小さな不安が生まれていた。


(――斎藤さんは、彼女にとって一体どんな存在なのだろう。

 ――斎藤さんにとって、この人は?)

 その疑問はつきそうになかった。


 零は清水月の写真を封筒へ入れると、依頼書と一緒に鞄の中へしまった。


「では、何かわかれば連絡します」

 そう言って席を立つ零。


「待ってください」

 西田が慌てて呼び止めた。


「なんですか?」

 零が振り返る。


 西田は少し言いにくそうに眼鏡を押し上げた。


「月先生は…その…、気性がとても荒いので」


「気性が荒い?」


「はい。ですから、月先生に調査していることがバレないよう、気をつけてください」


 零は一瞬、何とも言えない表情を浮かべた。


「分かりました」


 そして小さく頭を下げる。


「では」


 零はそのまま喫茶店を出ていった。

 扉が閉まる。

 西田は一人残された席で、深いため息をついた。



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