25
静が会計を済ませ、二人は店を出た。
街灯が静かな夜道を照らし、濡れたアスファルトに光が反射してきらきらと輝いている。
「斎藤さん。ご馳走していただき、ありがとうございました」
零は静に向かって深く頭を下げた。
「どういたしまして」
静は穏やかに答える。
しばらく二人は並んで歩いた。
楽しかった時間が終わってしまったことに、零は寂しさを感じ小さく息をつく。
やがて静が足を止める。
「零さん」
「はい」
静は零を見る。
「楽しい時間を、ありがとうございました」
「こちらこそ、ありが__」
言葉の途中だった。
突然、静が零を抱きしめた。
「あっ、あの…」
零の身体が固まる。
一瞬、何が起きたのか分からなかった。
けれど、すぐに静の腕の中にいることを理解する。
零は恐る恐る、静の背中へ腕を回した。
胸が激しく鳴っている。
静の体温が伝わってくる。
このまま、時間が止まればいい。
零は心の中で、そう願った。
ずっとこのままでいたい。
けれど__。
静はゆっくりと零から離れた。
「また連絡します」
静はそれだけ言うと、夜道を歩いていく。
零はその背中を見送った。
「……」
遠ざかっていく姿を、いつまでも目で追う。
やがて静の姿が見えなくなる。
楽しかったはずなのに。
今は、別れが惜しくて胸が苦しい。
零は自分の胸元へ手を当てた。
まだ、静の体温が残っているような気がした。




