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猫系男子と名探偵  作者: ひだまり
お洒落なバーにて
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23/39

23

 トイレに入った零は、洗面台の前で立ち止まった。

 鏡を見る。


「なっ……」


 自分の顔が、耳まで真っ赤になっている。

 零は慌てて両手で頬を覆った。


「……なんでこんなに赤くなってるの」


 さっきの静の言葉が、頭から離れない。

『――恋人ではない男性と、ベッドで一晩過ごせますか?』


「……」


 零は鏡を見つめながら考える。


(…あれって、遠回しに誘ってるってこと?)


 もし、そうだとしたら静は自分のことを、少しでも特別に思っているのだろうか。

 そう考えた瞬間、零の胸が大きく高鳴った。


「……だとしたら、斎藤さんは私のこと……」


 そこまで口にして、零は慌てて首を振る。


「って、そんなわけない」


 まだ、自分は静に何も伝えていない。

 静も自分に恋愛感情があるとは言っていない。


「大体、付き合ってもいないのに……いきなりベッドで添い寝だなんて……」


 言葉にするだけで恥ずかしくなり、零は顔を覆った。

 もし本当にそんなことになったら__。

 想像してしまっただけで、心臓がさらに速くなる。


「っ……!」


 零は慌てて深呼吸する。


(だめ……考えちゃだめ……)


 それでも、頭の中から静の顔が消えてくれない。


(……想像したら、鼻血が出そう……)


 零は心の中で叫びながら、何度も頬を冷ますように手で仰いだ。

 やがて少し落ち着くと、鏡の中の自分を見つめる。


「……普段通りにしなきゃ」


 そう呟いてから、零はもう一度深呼吸した。

 そして、まだ少し顔が赤いまま、静が待つカウンターへ戻っていった。


 ♢


 零がトイレから出て、カウンターへ向かって歩いていた、そのときだった。


 ドンッ!


「……あっ、すみません」


 零の肩が、一人の男性とぶつかる。


 零の視線の先。

 そこにいたのは、スキンヘッドにTシャツとズボン姿の強面な男だった。

 男の腕には入れ墨が入っている。

 かなり酒に酔っているらしく、足元も少しふらついていた。


「おい!てめぇ!」


「!!」


 零が驚き、肩を震わせる。

 男は右腕を押さえながら、零へ近づいていく。


「お前がぶつかってきたから、右腕が折れちまったじゃねーか!」


「えっ……」


「治療費払えや!」


「そ、そんな……」


 零は困惑する。

 ぶつかったのは確かだが、相手の腕が折れるほどの衝撃ではなかった。

 それでも、男は怒鳴りながら迫ってくる。

 そのとき。


「体格を見る限り、ぶつかって怪我を負うのは、あなたより彼女では?」


 静が二人の間に入った。


「……なんだと?」


 男が静を睨みつける。


「あなたが骨折しているなら、彼女は粉砕骨折しています。今すぐ彼女に、治療費を払ってください」

 静が冷静な口調で言った。


「この女に払う金はねぇよ!」

 と男が怒鳴る。


「…お金がないのであれば__」


 静の視線が、男の後ろへ向く。

 そこには、タイトな服を着た、グラマラスな体型の金髪ロングヘアの女性が立っていた。

 静はその女性の手を取る。


「この方を担保(たんぽ)として、いただきます」


「えっ?」


 女性は驚き、頬を赤らめる。

 男の顔が一気に険しくなった。


「咲子に触るな!」

 と男が怒鳴る。


 静は女性の手を離さない。


「では、今すぐ治療費を__」


 静が言った、その瞬間。

 男が右腕を大きく振り上げた。


「ふざけんな!」


「っ!」


 男の拳が静の顔に当たった。

 静の身体がよろめき、そのまま床へ倒れ込む。


「斎藤さん!」

 零が叫ぶ。


 店内に、騒然とした空気が広がった。



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