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「シャワー、浴びます?」
静が何気なく尋ねた。
その瞬間、零の顔が一気に赤くなる。
「浴びません!」
思わず声が大きくなった。
静は少し驚いたように瞬きをする。
「そうですか……」
それ以上は何も言わず、静は脱衣所へ向かった。
しばらくして戻ってくると、手にはドライヤーが握られていた。
「??」
ソファーに座っていた零が不思議そうに見つめていると、静は彼女の隣に腰を下ろした。
「髪、少し濡れています」
そう言って、静はドライヤーのスイッチを入れた。
ブォォォ……。
温かな風が、零の髪を揺らす。
「なっ……なにを……」
突然のことに、零は目を丸くした。
静は何でもないことのように、零の濡れた髪へドライヤーを当て続ける。
「動かないでください」
「……」
零は固まった。
耳元で響くドライヤーの音と、髪を撫でる温かな風。その向こうから、静の落ち着いた気配が伝わってくる。
どうして、この人はこんなに自然にこんなことができるのだろう。
零は頬が熱くなるのを感じながら、じっと前を向いていた。
しばらくして、静がドライヤーを止める。
「乾きました」
「……あ、ありがとうございます」
零が振り返る。
静はすでにドライヤーを自分の髪へ向けていた。
「……」
ブォォォ……。
今度は静自身の髪を乾かす音が部屋に響く。
零はしばらく静の姿を眺めていたが、やがて小さく息を吐いた。
「……ふぅ」
高鳴っていた胸を落ち着かせるように、ゆっくりと呼吸する。
けれど、なぜか心臓の鼓動は、なかなか静まってくれなかった。
そのときだった。
ゴロゴロゴロ……。
窓の向こうから、再び雷鳴が響いた。
「ひっ!」
零の肩がびくっと跳ねる。先ほどまで落ち着こうとしていた表情が、一瞬で強張った。
静はそんな零の様子を見て、ちらりと窓の外へ視線を向けた。厚い雲の向こうで、雷がまだ鳴り続けている。
「雷、鳴り止みませんね…」
「そうですね…」
零は残念そうに小さく答えた。
静は何も言わず、テーブルの上に置いてあったスマートフォンを手に取った。そして、その隣に置かれていた充電された新品のノイズキャンセリング機能付きイヤホンを手に取る。
「これを使えば…」
「え?」
零が顔を上げる。
静はイヤホンをケースから取り出し、片方を零へ差し出した。
「雷の音、聞こえにくくなると思います」
「でも、それ新品じゃ…」
「気にしなくて、大丈夫です」
静はそう言うと、零の返事を待つように一瞬だけ手を止めた。
零が戸惑いながら頷く。
静はそっとイヤホンを零の耳につけた。
「……」
距離が近い。
零は思わず身を固くした。
静は気にする様子もなく、もう片方のイヤホンを取り出すとスマートフォンを操作した。
しばらくして、イヤホンから静かな音楽が流れ始める。
穏やかなピアノの旋律。
雨音を包み込むような、ゆっくりとしたメロディーだった。
零は目を瞬かせる。
「……素敵な曲ですね」
「ええ、これを聴くと心が落ち着きます」
静はスマートフォンの画面を確認すると、音量を調整し、もう片方のイヤホンを零に手渡す。
零はそれを耳につけ、音楽に耳をすませた。
ちょうどいい音に零はしずかに目を閉じる。
外では雨が降り続き、ときおり雷鳴が響いているはずなのに、イヤホンの中では穏やかな音楽が流れている。
まるで、外の世界から切り離されたようだった。
零はゆっくりと息を吐く。
「眠い…」
そうつぶやき、静は零の隣に座った。
静の声が聞こえていない零はイヤホンから流れてくる音楽に耳を傾けながら、隣にいる静をちらりと見る。
雷が怖い。
さっきまでそう思っていたはずなのに――。
今は、不思議と安心していた。




