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ある日の午後8時。
朝日零は、斎藤静から初めて電話で誘われ、おしゃれなバーを訪れていた。
零は少し緊張しながらバーの扉を開ける。
店内はこぢんまりとしており、照明は落ち着いた明るさに抑えられている。静かなジャズがBGMとして流れ、カウンターの奥ではバーテンダーがグラスを磨いていた。
カウンター席には、刑事の服装をした静が座っていた。
静は濃紺のスーツに、白いワイシャツと落ち着いた色のネクタイを合わせている。足元は手入れされた黒い革靴。手首には普段から身につけている腕時計があり、全体的に隙のない端正な印象を与えている。
一方、零は白いコート姿だった。
コートの下には淡い色のシャツを着て、細身の黒いパンツを合わせている。足元はシンプルな革靴。黒髪のセミロングは自然に肩へ流れていた。
飾り気の少ない服装だが、落ち着いた大人の雰囲気があり、柔らかな店内の照明によく似合っていた。
零は店内を見回す。
そして、静の姿を見つけると声をかけた。
「斎藤さん、お待たせしました」
静が零の方を見る。
「零さん、お久しぶりです」
「お久しぶりです」
零は静の隣の席へ腰を下ろした。
二人が顔を合わせるのは、水族館で会って以来、一週間ぶりだった。
その間、零から静へ連絡をしたことは一度もない。
零は静の連絡先を知ってはいる。
けれど、自分から連絡することはできなかった。
だからこそ、突然、静から電話がかかってきたときは驚いた。
そして今、静のほうから自分を誘ってくれたことが、零の胸を落ち着かなくさせていた。
「今日はどうして、誘ってくれたんですか?」
零が尋ねる。
静はグラスへ視線を落とした。
「……少し、聞きたいことがあって」
「聞きたいこと?」
「ええ」
静はいつもの落ち着いた声で答える。
零は隣に座る静の横顔を見つめた。
肩まで伸びた茶髪の美男子、刑事としての凛とした雰囲気。
それなのに、今日はどこか柔らかく見える。
「先に、何か飲みますか?」
「あっ、はい」
零はメニューへ手を伸ばした。
濃紺のスーツを着た静と、白いコートをまとった零。
静かなジャズが流れる店内で、二人の距離はいつもより近く感じられた。
零はメニューを見つめながら、頭では別のことを考えていた。
静が何を話そうとしているのか。
それだけが、気になって仕方がなかった。




