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猫系男子と名探偵  作者: ひだまり
夜泣き
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18/39

18

 朝。

 薄い光がカーテンの隙間から差し込み、静かな寝室を淡く照らしていた。

 ベッドの上、静がゆっくりと目を開ける。


「……」


 すぐそばに、月がいた。

 月は静が起きたことに気づいていないのか、静の髪へ指を通しながら、優しく頭を撫でていた。


「あ!おはよう、斎藤」


「……おはようございます」


「今日は休日でしょう?」


 月は小さく微笑む。


「もう少し眠って…」


 静は目を細めた。

 昨夜は何度も月に起こされた。

 そのたびに月を落ち着かせ、ようやく眠ったと思えば、また泣き出す。


 身体には疲れが残っている。

 けれど、不思議と嫌ではなかった。


 月が静の頬へ顔を近づける。

 そして、ほんの一瞬だけ唇を触れさせた。


「……」


 静は何も反応しなかった。

 驚きもしない。

 照れもしない。

 頬が赤くなることもない。


 静には、昔からそれがなかった。

 女性に対しても。

 男性に対しても。

 誰かに近づかれて心臓が高鳴ったことがない。


 緊張して言葉を失ったこともない。

 恥ずかしくて顔を赤くしたこともない。

 周囲の人間が当たり前のように感じる感情を、自分だけが持っていない。

 だから静は、ずっと思っていた。

 自分には、人として大切な何かが欠けているのだと。


 父親に教えられた礼儀や振る舞いを身につけ、人から見て問題のない人間を演じる。

 静はずっとそうやって生きてきた。

 けれど、その内側には、他人と同じような感情が存在していない。


 静は隣で微笑む月を見る。

 もし、自分が普通の男性だったなら、今の自分はもっと違う反応をしているだろうと静は思う。

 女性に抱きしめられれば胸が高鳴り、頬を赤くして、もっと近くにいたいと思う。

 そして、本能のまま月を抱きしめているのかもしれない。

 そんなことを、静はぼんやりと考えていた。


 月は静の頭を撫で続けている。

 静はその感触を感じながら、目を閉じた。


 ♢


 しばらくして、静は目を覚ました。

 カーテンの隙間から差し込む光に目を細め、ゆっくりと身体を起こす。


「ん……?」


 隣を見る。

 そこに月の姿はなかった。

 静はベッドから起き上がり、寝室を出る。

 リビングへ向かうと、テーブルの上に一枚の紙が置かれていた。


「?」


 手に取る。

 そこには、月の文字で短いメッセージが書かれていた。


『斎藤へ。添い寝してくれてありがと♡大好き♡』


 その下には、もう一つ何か描かれている。


「……」


 静は紙を少し傾けた。

 そこに描かれていたのは、静をモデルにしたらしい男性の似顔絵だった。

 髪型も、目も、輪郭も__。

 大人が描いたとは思えないほど、下手くそな似顔絵だった。


「……」


 静はしばらく無言で似顔絵を眺めた。


 そして__。


「ふっ…」


 思わず笑いが漏れた。

 笑うつもりなどなかったのに、口元が緩んでしまう。


「……全然、似てない」


 そう呟きながら、静はもう一度似顔絵を見る。

 下手なのに、なぜか捨てる気にはならなかった。


 静はその紙を丁寧に折ると、テーブルの上へ戻した。

 そして、誰もいない部屋で小さく呟く。


「……元気そうでよかった」


 返事をする相手はいない。

 それでも静の口元には、まだ微かな笑みが残っていた。


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