16
月はドライヤーをテーブルへ置くと、静の隣に座り、
ソファの背もたれに身体を預けた。
「斎藤、私はね…。別の惑星から来た宇宙人なの」
「……」
静は黙って月を見る。
月は真顔だった。
「目的は、人間とXXXをして、子供をつくること」
「…………」
長い沈黙が流れた。
静は月の顔をじっと見つめていたが、やがて小さく息を吐いた。
「あなたは、黙っていれば異性にモテる外見をしているのに、どうしてそんな性格なんですか?」
「そのセリフ、そのまま全部あなたに返すわ」
「……」
静は何も言えなかった。
月は少しだけ口元を緩める。
「あなた外見はいいけど、中身は意地っ張りでめんどくさくて、演技臭くてナルシスト。
クールな男を装ってるけど、時々すごくバカなところが前面に出てくるの、そういうところも可愛い~って思ってくれるバカな女がお似合いだから、マッチングアプリに登録して恋人でも作れば?」
「……」
長い沈黙の後、静が話し始める。
「…中身にギャップがある分、お互い生きづらい人生ですね」
「あなたと一緒にしないで、私は生きづらいなんて思わないわ」
と月は即座に言い返した。
「私は自分が大好きだから」
静が少し目を見開く。
月は自分の銀色の髪を指先で弄びながら、当然のことのように続けた。
「私の性格のなにがいけないのか、理解できないわ」
「……」
静は月を見つめる。
敬語で話し、他人に受け入れられるように振る舞う静とは正反対だった。
月は、自分自身を疑っていない。
自分というものをちゃんと持っている、それが清水月だった。
「あなたも、自分を好きになればいいじゃない」
「……難しいですね」
「どうして?」
静は答えなかった。
幼い頃から父と兄に教え込まれた言葉遣い、立ち振る舞い、人との距離の取り方。
それらを身につけた結果、今の自分がある。
だからこそ、本当の自分は見せられない、そう静は感じていた。
月はそんな静の横顔を見つめる。
「……あなた、心の中の声は敬語じゃないでしょ?私に対して、ものすごい暴言をはいてるんじゃないの?
このうるさいクソ女が、いつか痛い目にあわせて刑務所送りにしてやる、なんたって俺は警察官だからな!って、そう思ってるんでしょ?」
「そんなこと、思ってませんよ」
静はめずらしく、ほんの少しだけ笑った。
しばらくの静寂。
月は静をじっと見つめる。
「斎藤……。私は、本当のあなたを知りたい…」
その声には、先ほどまでの冗談めいた調子がなかった。
「本能のまま、私に接してほしいの」
静は月の言葉を聞き、少しだけ眉を動かした。
「そういう割には、一線は越えないと断言していましたよね」
「ええ」
月は迷いなく答える。
「あなたは私の恋人じゃない」
静が黙って月を見る。
「友達以上、恋人未満。その関係を私は維持したいの」
月はそう言うと、静との距離を縮めた。
そして、静の膝の上に腰を下ろす。
「……」
静は驚いた様子もなく、月を見つめていた。
月は静の頬へ手を添える。
指先で、その輪郭を確かめるようにゆっくりと撫でていく。
二人の視線が重なる。
近い距離にいる。
普通なら、胸が高鳴ってもおかしくない。
けれど__。
静の心臓は、驚くほど穏やかだった。




