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猫系男子と名探偵  作者: ひだまり
夜泣き
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15/39

15

 しばらくして、寝室の扉がゆっくりと開いた。

 月が顔を出す。

 静は先ほどと変わらず、リビングのソファに座っていた。

 月は何も言わずリビングに戻り、静の隣へ腰を下ろす。

 しばらく静の横顔を眺めたあと、小さな声で言った。


「眠れないから、一緒にきて…」


「……」


 静は答えない。


「そのまま壊れたロボットみたいに喋らないつもり?」


「……」


 やはり返事はない。

 月は少しだけ頬を膨らませた。

 静は黙ったまま立ち上がった。


「斎藤?どこいくの?」


 静がそのまま脱衣所へ向かっていく。

 月は不思議そうにその背中を見送った。

 しばらくすると、静がドライヤーを手に戻ってきた。


「それで私をぶん殴って、殺すつもり?」

 と笑う月。


 静は答えず、月の後ろへ回る。


「なに?」


 電源を入れる。

 ブォン、と小さな風の音がリビングに響いた。

 静は月の濡れた髪に温風を当て始める。

 月は目を丸くした。


「……」


 静は何も言わない。

 ただ、髪を傷めないように指で優しくとかしながら、丁寧に乾かしていく。

 月は次第に大人しくなった。

 温かな風と、時折髪を撫でる静の指先。

 さっきまでの不機嫌さも、いつの間にか消えていた。


 やがてドライヤーの音が止まる。

 静は月の銀色の髪に触れて確認する。


「……」


 十分に乾いたことを確かめると、ドライヤーをテーブルの上に置いた。

 月が静に微笑みかける。


「ありがと、斎藤」


 静は何も答えない。

 そのまま脱衣所へ向かっていく。


「シャワー浴びるの?」


 月の問いかけに静が小さく頷く。

 やがて浴室の扉が閉まり、シャワーの音が聞こえ始める。


 月は一人、ソファに座ったまま待っていた。


 しばらくして、浴室からシャワーの音が止まった。

 やがて脱衣所の扉が開き、静が出てくる。髪は濡れたままで、寝間着に着替えていた。

 静は何も言わず、リビングのソファへ腰を下ろす。

 月はしばらく静の濡れた髪を見つめていた。


「……髪、乾かしてあげるわ」


 静は答えず、月へドライヤーを渡した。

 月が静の後ろへ回る。


 ブォン、と温風が流れ始める。

 月は指で静の髪を梳きながら、ゆっくりと乾かしていく。

 静はされるがままになっていた。


 しばらくして、月の指先が静の耳に触れる。

 月はそのまま静の耳に顔を近づけ、その耳元で小さく囁いた。


「…さっきは、ごめんなさい」


 ドライヤーの音に混じって、かすかな声が聞こえる。


「私が悪かったわ…」


 静は目を伏せた。


「別に、あなたに謝ってほしいわけじゃありません」


 月の手が止まる。


「じゃあ、どうしてほしいのよ」


 静はしばらく黙っていた。

 そして、ゆっくりと月を見る。


「教えてほしいんです」


「なにを?」


「あなた自身のことです」


 月の表情が固まった。

 静は続ける。


「どんな人生を歩んできたのか…」


 月はドライヤーを持ったまま、静を見つめる。

 静の表情はいつもと変わらない。

 けれど、その目には今までとは違うものがあった。


「あなたのことを、何も知らないままでは……どう接すればいいのか分かりません」


 月はしばらく黙っていた。

 やがてドライヤーのスイッチを切る。

 静かなリビングに、二人の呼吸だけが残った。


「私のこと……そんなに知りたい?」


「はい」


「聞いたら、私たちの関係が変わってしまうかもしれないわよ」


「それは、話を聞いてみないと分かりません」


 月は静を見つめる。

 そして、ほんの少しだけ寂しそうに笑った。


「……そう」


 月はドライヤーをテーブルへ置いた。


「じゃあ、話してあげる」

 その声には、いつもの軽さがなかった。




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