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猫系男子と名探偵  作者: ひだまり
夜泣き
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14/39

14

 しばらくして、浴室からシャワーの音が止んだ。

 静がソファで待っていると、やがて脱衣所の扉が開く。


 月は、あらかじめ脱衣所に用意していた寝間着に着替えていた。白いフリルのついた柔らかな部屋着が、風呂上がりの身体を包んでいる。銀色の長い髪はまだ少し濡れており、毛先から小さな雫が落ちていた。


 月は洗面台で歯磨きを済ませたらしく、口元を軽く拭う。

 そして、そのままリビングへ戻ってきた。


「……」


 静は月を見る。


「なに?」


「いえ…」


 静は視線を逸らした。

 月はそんな静を不思議そうに見つめながら、白いソファへ腰を下ろし静の隣にすわった。


「眠くなってきたわ」


「そうですか」


「ええ」


 月は背もたれに身体を預け、静かに目を閉じた。

 先ほどまでやけ酒を飲んでいたとは思えないほど、表情は穏やかだった。

 しばらくして、月はソファに身体を預けたまま、突然ため息をついた。


「あ~、ダメ……」


 静が月を見る。


「なにがダメなんです?」


「今日から新しいマネージャーに変わったの」


「新しいマネージャー?」


「ええ。西田幸太郎(にしだこうたろう)っていう男性マネージャーなんだけど」


 月は少しだけ眉を寄せる。


「黒髪で、黒縁メガネ、背が高くてスタイルもいい。外見は私好みの男性なの…」


「そうですか」


 静は特に興味がなさそうに返した。

 月はそんな静を横目に見る。


「見た目はすごくいい男だけど……」


「なんですか?」


「仕事ができないポンコツなのよ」


「……」


 静は少しだけ目を細めた。


「ポンコツ?」


「ええ」


 月は即答する。


「見た目通りなら、別に気にならないのよ。いかにも仕事ができなさそうな人なら、最初から期待しないでしょう?」


 月は腕を組む。


「でも、西田は違うの」


「どう違うんです?」


「何でもできそうな顔をしてるのに、何一つできてないのよ…」


 月は心底うんざりしたように天井を見上げた。


「それがほんとにイライラするの…」


 静はしばらく月を見つめたあと、小さく息を吐いた。


「……大変ですね」


「他人事みたいに言わないで」


「他人事ですから」


「……」


 月は静を睨む。

 静はいつもの無表情のままだった。


「斎藤」


「はい」


 月はソファに座ったまま、少し不満そうに静を見る。


「西田を思い出すから、敬語で話すのやめて」


「……」


 静は少し考えてから答える。


「できません」


「どうして?」


「幼い頃から、年齢に関係なく敬語で話すよう父に教育されてきたので」


「そんなの関係ないわ!」


 月は即座に言い返した。

 静は月を見つめる。


「……なら、あなたとは話しません」


「嫌よ、ちゃんと話して」


「……」


「話してよ…」


「……」


「話せって言ってんの!!」


「……」


 月の表情がかたまった。

 静もそれ以上は何も言わない。

 しばらく、二人の間に沈黙が落ちた。


 月は静の顔を見つめていたが、やがて何も言わずに立ち上がった。

 そのまま寝室へ向かって歩いていく。


「……」


 静は黙ってその背中を見送る。

 寝室の前まで行った月は、一度だけ振り返った。

 しかし、何も言わなかった。

 そのまま扉を開け、部屋へ入る。

 バタン!

 大きな音を立てて、扉が閉じられた。

 リビングに一人残された静は、閉じた寝室の扉をしばらく見つめていた。



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