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猫系男子と名探偵  作者: ひだまり
夜泣き
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13/39

13

 水族館で斎藤静が朝日零と再会する前日の、午後7時。


 警察署で仕事を終えた静は、自宅である一軒家へと帰った。

 自宅の玄関の扉を開けると、静まり返った部屋が出迎える。


「……ただいま」


 返事が返ってくるはずもない独り言だった。

 静は上着を脱ぎ、ハンガーへ掛ける。ネクタイを外し、腕時計をテーブルの上へ置いた。


 明日は休日。


 どこへも行かず、一日中、眠るのも悪くない。

 そう思いながらキッチンへ向かい、冷蔵庫を開ける。


 簡単に食べられるものを取り出し、軽く夕食を済ませる。食欲があるわけではなかった。ただ、何も食べずに眠るのもどうかと思っただけだった。


 食器を片付けると、静は窓を少し開けた。

 煙草を一本取り出し、火をつける。

 静かな部屋に、煙草の煙がゆっくりと漂っていく。


 静は窓辺に立ち、夜の街を眺めながら煙を吐き出した。

 仕事のことを考える。

 今日も事件の対応に追われた。

 明日は休み。

 だからといって、特に予定はない。


「……」


 ピンポーン。

 突然インターホンが鳴った。


「?」


 静は立ち上がり、玄関へ向かう。

 扉を開けると、そこに一人の女性が立っていた。

 銀色の長い髪、白いワンピースを身にまとった、二十二歳の女性。

 どこか現実離れした雰囲気を漂わせる美人だった。


 ホラー作家・鏡崎一雄(かがみざきかずお)。

 それは彼女が使用しているペンネームだった。

 本名は、清水月(しみずつき)。

 月と静は知り合って3か月経つ、友人とも恋人とも呼べない奇妙な間柄だった。


「こんばんわ、斎藤。一週間ぶりね」


 月はそう言って微笑む。

 静は何も答えなかった。

 ただ、無言のまま月を見る。


 月も特に気にした様子はなく、静かに玄関の中へ入っていった。

 二人はそのままリビングへ向かう。

 月は白いソファに腰を下ろすと、部屋を見回した。


「斎藤、お酒ある?」


 静は答えず、キッチンへ向かった。

 冷蔵庫を開ける。

 中から缶ビールを一本取り出し、月の前へ戻る。


「どうぞ」


「ありがとう」


 月は缶を受け取る。

 プシュッ。

 小さな音を立ててプルタブを開けると、そのまま缶を口元へ運んだ。

 ごく、ごく、と喉を鳴らしながら飲み進める。

 そして__。


「……ふう」


 短い時間で、缶を空にした。

 月は空になった缶をテーブルへ置く。


「斎藤、もう一本ちょうだい」


 静は月を見つめた。

 しかし、月は何も言わない。


「……」


 静は何も言わずに再びキッチンへ向かった。

そのまま、冷蔵庫からビールを取り出し月に手渡す、受け取る月。

 月が二本目の缶ビールを飲み終えると、叩きつけるように空き缶をテーブルへ置いた。


「まだ足りないわ……」


 静はそんな月の様子をしばらく見ていた。

 普段なら、もう少しなにか話すはずだった、それなのに今日は、妙に口数が少ない。

 静はキッチンへ向かい、冷蔵庫を開ける。

 最後の一本を取り出し、月へ差し出した。


「なにか、嫌なことでも?」


 月は缶ビールを受け取りながら、静を見る。


「別に……なにもないわ」


 プルタブを開ける。

 そして、また一気に飲み干した。

 空になった缶をテーブルへ置く。


「まだある?」


「もうありません」


「あっそ…」


 月はそれだけ言うと、ソファから立ち上がった。


「シャワー浴びてくる」


「はい」


 月はそのまま浴室へ向かっていった。

 しばらくして、浴室の扉が閉まる音がする。

 静は一人、リビングに残された。


「……」


 静自身、月が何かを抱えていることは、なんとなく分かっていた。

 けれど、本人が話したくないのなら、無理に聞くつもりもない。

 静はソファに腰を下ろし、浴室から聞こえてくるシャワーの音をぼんやりと聞いていた。




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