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猫系男子と名探偵  作者: ひだまり
水族館
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11/39

11

 静は零の手を引いたまま、館内を歩いていた。

 しかし、特に目的地を決めている様子はない。


「斎藤さん、どこへ向かっているんですか?」


「分かりません」


「わからないって…」


 零は思わず苦笑した。

 静は興味を引かれた方向へ気ままに進んでいるだけらしい。やがて二人は階段を下り、気がつけば水族館の地下へとたどり着いていた。


「……あれ?」


 零が周囲を見回す。

 一般の来館者がいる気配はなく、照明も少ない。壁には関係者以外の立ち入りを禁じる表示が出ている。


「斎藤さん。ここ…立入禁止の場所じゃ…」


 そう言って零が看板を指差す。

 静もようやく周囲を確認した。


「間違えました」


「はぁ……」


「戻りましょう」


 静が踵を返した、そのときだった。

 ――ガタン。

 奥の部屋から、何かが動く音が聞こえた。

 二人の足が止まる。

 零が静を見る。


「……今、音しましたよね?」


「しました」


 静は少し考えた。

 そして、興味を引かれたように音のした方向へ歩き始める。


「ちょっと、斎藤さん!」


 零も慌てて後を追った。

 廊下の奥には、一つの扉があった。そこから微かに人の気配がする。

 静が扉の隙間から中を覗く。


「……?」


 零も静の横から部屋の中を確認した。

 そこにいたのは、一人の女性だった。

 二十代ほどに見える金髪の女性で、いわゆるギャル系の派手な雰囲気をしている。巨大水槽で行われるイベントのためなのか、人魚をイメージしたコスチュームを身につけ、鏡の前で衣装を整えていた。


「……ここってスタッフルームじゃ…」


 零が思わず呟く。

 女性が二人の気配に気づき、振り返った。


「誰!?」


 静と零も、思わず固まる。

 女性は二人の姿を見ると、驚いたように目を丸くした。しかし、すぐに表情を戻すと、人懐っこい笑みを浮かべた。


「あなた達、お客さん?ここ、スタッフルームなんだけど…」


 零は人魚衣装の女性に頭を深く下げた。


「ごめんなさい!すぐ上に戻ります。行きましょう、斎藤さん」

 そう言って零が静の方を見る。


 静は女性の方をじっと見ていた。

 女性は頬をほんのり赤く染め、静に声をかける。


「茶髪のお兄さんなら入っていいよ」


「はい???」

 と零が眉間にしわをよせる。

 女性は零の視線を気にすることなく、静に歩みよる。


「お兄さん、雰囲気いいし~、連絡先、聞いちゃおっかな~?」


「……」


 零の眉がわずかに動いた。


「ちょっと……」


 思わず口を挟みかける。

 しかし静は特に気にする様子もなく、女性をじっと見つめた。

 人魚の衣装の鱗(うろこ)部分が虹色にキラキラとひかって見える。


「その衣装…」


「綺麗でしょ?この鱗、偽物だけどよくできてる」


「……」


 静は少し考えるように沈黙する。

 そして、ふと微笑んだ。


「衣装は偽物でも、あなたは本物の人魚みたいに綺麗ですね」


「えっ……」


 女性の表情が固まった。

 みるみるうちに顔が赤くなり、女性は照れたように俯く。


「そ、そういうこと言う人なんだ……」


 零はその様子を見て、呆れたように静を見る。


「斎藤さん……」


「はい?」


「あなた、女性の扱いが上手いですね」


「そうですか?」


「……」


 零は小さくため息をついた。

 静は女性へ軽く頭を下げる。


「失礼しました。立入禁止なら戻ります」


「あ、うん……」


 女性はまだ少し顔を赤くしたまま頷いた。

 静は零の手を取ると、来た道を戻り始める。

 二人は階段を上っていく。

 零は歩きながら、隣の静をちらりと見る。


「……」


「どうしました?」


「なんでもありません」


 零は前を向いた。

 その表情には少しだけ不満そうな色が残っていた。

 静はそんな零の様子に気づかないまま、何事もなかったように一階へ向かって歩いていった。




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