6 名付け
昔々、仲間たちとツーリングしたことがある。楽しかった。仲間の一人が自分のバイクに名前を付けていた。変わった奴だ。決して私ではありません。
納車があって3週間、千葉オートからハガキが届いた。
内容はバイクのメンテナンスとツーリングのお誘い。
バイクのメンテナンスは分かる。でもツーリングのお誘い?何だろう、もしかしてデートのお誘い?イケメンの千葉さんを思い浮かべる。悪くない。
でもデートをハガキで誘ってくる?
やはり、それは流石にないな。
私は、少しときめきかけ気持ちを抑えます。
次の日曜日、私はケロロに乗って千葉オートに行くことにしました。
そうです。お気付きになったと思います。私のNinja ZXに名前を付けました。
正式名は、「ケロリータ・ヴァン・ゲリオン」です。
ご想像の通りです。私の大好きなアニメから引用ました。
愛称が「ケロロ」です。
さて、父に買ってもらったお気にいりのジャケットを羽織って出発。
Ninja ZXのキーには、昔々、某ハンバーガー店で、あるセットメニューを買うと付いて来たケロロ軍曹がぶら下がっています。可愛い。
千葉オートの店頭にバイクを乗り付け、例の動作をします。決まった。
この動作にも慣れてきました。自然にできていると思います。
周りを見渡すと、今回も誰も見てくれていません。まあいい。こういうのは自己満足だから。
カツカツ、バイク用にしては少しヒールの高いブーツを鳴らしながら、店内に入ります。
「いらっしゃいませ」
店内から、元気のいい声がします。千葉さんだ。
「お葉書を頂いたので、参りました。お願いします」
私は、ハガキとバイクのキーを千葉さんに渡します。
「ありがとうございます。30分程でできますので、こちらでお待ちください」
千葉さんに案内され、外の景色が良く見えるテーブルに着きます。
彼は直ぐにコーヒーを持って戻ってきました。
「バイクの調子はどうですか」
「はい。とても良いです」
「それは、良かった。それとハガキでご案内していましたツーリングについてはどうですか。一緒に走りませんか」
「その事ですが、そのツーリングとはどのようなものですか?私、バイクは今回が初めてなのでよく知らないのです。教えて頂けないですか」
「勿論、お教えします。この企画は千葉オートが主催するもので、千葉オートの顧客を対象にした四国の街道を日帰りで行くツーリングです」
今回のは、片道80km、朝9時に出発して午後4時に帰ってくる。「祖谷蕎麦を食べに行こうツーリング」だそうだ。
祖谷蕎麦は食べてみたいけど、往復で160km、結構きつそうだ。止めておこうかな。
「初心者の私には、難しそうなので、今回は止めておきます」
「そうですか。でも気が変わったら連絡してください。いつでも歓迎します」
千葉さんはとても残念そうです。
その後、世間話をしていると、整備担当の方が、ケロロの鍵を持ってきました。異常ないとのことです。
「ありがとうございました。ツーリングのことはもう少し考えて見ます」
私が鍵を受け取り、帰ろうとすると、千葉さんが少し驚いたような顔をしました。
「そのキーホルダー、ケロロ軍曹ですね。私のはギロロです。おそろいです」
そう言うと、ポケットから鍵を出して見せます。
その鍵には目つきの鋭い赤いマスコットがぶら下がっています。ギロロ伍長です。
「本当です。おそろいですね。もしかして千葉さん愛用のバイクは赤いのですか」
「その通りです。良くお気付きですね。それで赤いバイクと言えば」
千葉さんは少し興奮気味に語りかけます。
私は思ったことを口にします。
「郵便屋さんのバイクですか?」
「ぶっ!」
整備担当の方が噴出しています。
「違います。今は自宅に置いてあるので、お見せできないのが残念です。私のバイクの方がいいと思います。もちろん郵便屋さんのバイクを馬鹿にするわけではありませんが」
バイク屋のオーナーだけあって自分のバイクにも相当な拘りがあるのだろう。
「ごめんなさい。私、バイクは初心者なので」
「いえ、こちらこそ申し訳ありません。少し取り乱してしまいました」
「くっくっ」
整備担当の方は笑いを押し殺しています。でもこの笑い方見覚えがあります。クルル曹長では。
メカニックな所もそっくりです。
機会があれば聞いてみたいです。あなたのバイクは何色ですかと。
多分黄色だと思います。
千葉オートは面白いバイク屋さんです。
これからも、お付き合いしたいお店です。
書いていて思い出しました。私のケロロ軍曹たち。古いおもちゃ箱を漁ります。でも、見つかりません。




