5 初乗り
今日は親戚の田植えの日、お手伝いをします。軽トラックに苗を乗せて田んぼまで運ぶのが私の仕事、もんぺ姿に花笠を被る事はありません。これを少し書いてから出発です。
言語障害の父をその場に残し、私は自分の部屋でライダースーツに着替える。
ガレージ前に戻ると、父はまだNinja ZXを眺めている。
「近くを走ってくる」
キュルキュル、ブィーン。
「気を付けて行っておいで」
小さく頷いてNinja ZXを発進させる。
バックミラーに小さく写る父は手を振っていた。物欲しそうに見えるのは気のせいだろうか。
私は、Ninja ZXを西に向けて走らせる。まだ少しぎこちない。それに国道は車が多くて気持ちよく走らせられない。
屋島でも行ってみようかな。
交差点を右折し、屋島スカイウエイに入る。緩いカーブを加速しながら登る。
気持ちが良い。
屋島スカイウエイの頂上には山上観光駐車場がある。そこで、いったんバイクから降りる。
勿論、家で練習した美女の仕草は忘れない。決まった。
でも、誰も見ていない。
それでいいのです。普段から自然に、意識せずにできなければならないのです。
自動販売機でコーヒーを買う。
バイクにもたれながら飲む。これは、バイク雑誌に載っていたワンショット。これも決まった。
次来るときは自撮棒を用意しよう。ふふふ
心がウキウキして嬉しくなってきた。
Ninja ZXは快調。私も快調。
でも心配な事もある。
それは加速がやばい。この加速は封印だ。でないと死んでしまう。
そもそも、Ninja ZXを選んだ理由は、エバン1号機と同じ色だという事、また忍者という名前が気に入ったからです。
しかし、Ninja は忍者でした。本物の忍者のような動きは私の運動能力を次元的に超えています。この力はこの世にあって良い物ではありません。封印です。
「・・・」
いいえ、能あるタカは爪を隠すのです。決して宝の持ち腐れではありません。何よりも安全第一です。よし。
Ninja ZXの感想を胸にしまいこみ、私は家に戻ります。
「ただいま」
「どうだった。バイクは」
父が聞いて来た。かなり興味があるようだ。
「うん。快適だったよ。屋島登ってきた」
「そうか。私も乗ってみたい。貸してくれないか」
「いやだよ」
私は即答し、母が追い打ちをかけた。
「そうよ。お父さん、歳を考えなさい。あなたは大人しく耕運機をいじっていなさい」
父は昨年、銀行を定年退職して、今は趣味の機械いじりを楽しんでいる。
どこからか、壊れた機械を運んできては、それをバラし組み立てている。主に農機具の修理が多い様だ。多少の小遣いにもなっているようだ。
そう、父にバイクを貸すとバラバラにされかねない。
「そんな事を言うなよ。私も昔はスポーツタイプのバイクに乗っていたことがある。今のバイクはどうなのか、乗ってみたいんだ。明美いいだろ。今度ライダー用のジャケットを買って上げるから」
「本当?ならこれ買って」
私は雑誌を持ってきて、指を指す。高額だったため諦めたジャケットだ。3万5千円。
「うーん」
父は唸る。私は追い打ちをかける。
「それから、ヘルメットは貸さないからね。親父臭いのは無理だから。また、燃料は満タンで返す事」
「うーん」
「はいこれ」
私は唸り続ける父にバイクのキーを預ける。 よし。
父は建築作業員がかぶるヘルメットを着けて外に出る。
キュルキュル、ブィーン。父はNinja ZXを発進させた。工事現場へ行くのだろうか。
1時間後、外からNinja ZXの排気音が聞こえたかと思ったら、父が帰ってきた。
私は父に近寄り、感想を聞く。
「お帰り。どうだった」
「凄い加速だった。車体が軽いのだろう。発進から一瞬で60km/h、あれは危ない。明美、気を付けなさい」
「うん。スピードは出さない」
「それがいい。それから、これ」
父はスマホを開いて、写真を見せた。屋島の展望台付近でNinja ZXに跨る建築作業員?
近くにいた観光客にお願いして撮ってもらったと言う。
うわ、恥ずかしい。
しかし、父は嬉しそうだ。
「あら、綺麗に撮れているじゃない」
母も嬉しそうだ。
まあ良いか。
昨日の田植えの影響で筋肉痛です。それから私のスーパーカブ90が退院してきました。こちらは調子が良いです。




