4 納 車
目がシワシワします。鼻がずるずる。これは花粉症でしょうか。昨日からとても辛いです。PCの画面を見るのが辛いです。身体が辛くて、ストーリーが浮かびません。それが一番辛いです。いいえそれは、いつもの事です。慣れています。
ライダージャケットを購入し、ヘルメットも買いました。あれこれ買い揃える日々は幸せでした。
最近は仕事を終えると直ぐに帰宅し、自室にこもります。
ライダーの服装に着替えて、姿見の前に立ちます。ヘルメットをかぶり、ヘルメットを外す。軽く頭を振って髪をなびかせます。
何かで見た、美女がバイクから下り立ったシーンです。何事も練習が必要です。テレビ画面の美女も何度も練習していたはずです。楽しい。
そのような有意義な毎日を送って一カ月、その日はやってきました。
ついにNinja ZX、納車の日が来ました。
自宅まで届けてもらう事にしています。バイクショップで受け取り、いきなり乗って帰るのは怖いからです。
ピンポーン。玄関の呼び鈴が鳴ります。
「はーい」
私は2階から玄関に降りて行き、引き戸を開けます。
「こんにちは、千葉オートです。Ninja ZXの納車に参りました」
納車に来た人は、あのイケメンの定員さんです。
「ご苦労様です。ガレージを開けるので、そこに入れて下さい」
私は、玄関から出て、ガレージに案内する。
そうです。私は、実家暮らしです。郊外にある築30年の古ぼけた家ですが、父の趣味の関係で納屋があります。
なので、ガレージがあるのです。私は納屋をガレージと呼んでいます。
納屋は農機具を入れる倉庫、ガレージは車両を入れる倉庫、だから、Ninja ZXが入る事に決まった時点で、ここはガレージなのです。
父は納屋と呼んでいますが、多少の齟齬です。
「明美、バイクが届いたみたいだな。私にも見せてくれ」
いつの間にか、父が傍らに立っています。オヤジいつの間に?
「いいよ。いま表でトラックから降ろしているから、直ぐに見えるよ」
丁度そのタイミングで、バイク屋さんに押されてNinja ZXが現れた。
「こんにちは、お父様ですか、私、千葉オートの千葉と申します。この度はお嬢様にお買い上げいただきました。ありがとうございます」
この人、千葉というのか、初めて知った。もしかして千葉オートのオーナーなのか?
「田中です。ご苦労様です」
挨拶をされると思わなかったのか、父は慌てて挨拶している。
「バイクはどこに運びましょう」
千葉さんは、ガレージの方向を見ながら尋ねる。
ガレージ内には軽トラックと耕運機が収められている。その横にまだ車一台分のスペースがある。Ninja ZXはそこに駐輪するつもりだ。
「いや、この場所でいい。後で納屋には私が移動させます」
父は広いこの場所で、Ninja ZXを見ていたいのだろう。
「分かりました。では、この度はお買い上げありがとうございました。メンテナンスについても当店をご利用お願いいたします」
千葉さんは、挨拶をすると直ぐに引き上げて行った。表の道路にトラックを長く停めておけないのだろう。
千葉さんを見送り、振り返ると、父は目をキラキラさせてNinja ZXを見ていた。
Ninja ZXは私の愛車なのに何がそんなに嬉しいのだろう。
「おお、カッコいいな。でも何故、緑色なのだ。忍者と言えば黒だろ。忍びなのだから。いや草原を走る忍者か、いややはり黒だろ」
父は独りブツブツ言っている。
「お父さん、もう十分見たでしょ。エンジン掛けてみたいから、少し離れて」
「ああ」
キュルキュル、ブィーン。ブィーイーン。
「おおー」
また父が感動している。これ私のNinja ZXだよ。
私はヘルメットも着けずに、ガレージ前の広場でNinja ZXを少し走らせた。
「おおー」
父は言語障害になったようだ。
書いているうちに、私自信がバイクを欲しくなってきた。やばい。




