月昇る、猫の集会
我作者、引っ越してきたー・・・(*´ω`*)
今日は月が良く見える日だった。時折雲がさえぎることもあったが、夜に活動するには都合の良い日だった。
しかし、今の俺たちには光を見ることができなかった。夜の紛れるほど暗い体から、猫の声を放つそんな化け物が視界を覆うせいで。
「なんなんだよ、こいつは……」
「ニャー……そう、そんな声が聞こえたら狙われてる証拠。ここは危険な場所だと、お母さんに教えてもらえなかった?」
「こ、子供の声!?」
「そうなんじゃない? 小柄だけど僕は人間さ、猫に化けてるだけで」
それは確かに猫のようなシルエットだが、体格や骨格からして本物のそれとは程遠い。それなのに、俺たちは気づけなかった。月光が隠れてた少し前、確かにこいつは黒猫の姿をしてた。
これは、まるでおとぎ話に出てくる化け物だ。月の魔力が化け物の正体を暴くといった、そんな夢物語のような出来事に、俺たちは襲われたんだ。
「ここは、僕らの縄張りなんだ。確かにここは法の手が届かない場所だけど、安全な場所でもない。分かったら、とっとと去れ」
「く、っそ……」
「なんでったて、こんな目に」
俺たちはただ、いい小遣い稼ぎになると聞いてやって来ただけだ。
ここのスラム街は、懸賞金のかけられた犯罪者が良く集まる場所らしい。だからこそ、仲間を募ってここまでやって来たのに、フタを開ければとんだ化け物がいたものだ。
恐らく折れてるであろう足を引きずりながら必死に逃げた。必死だったが、周りが静かすぎて嫌でも耳に聞こえちまった。あの化け物の、最後の言葉を。
「アーリーコア起動。メール送信。これより30分後に会議をする、遅い時間だけど早急に共有したいことがある」
紛れもない人の、それも子供の声だ。その事実が、俺にたたきつけるような痛みを錯覚させる。こんな子供一人に負けたなんて屈辱的だ。同時に、疑念もよぎる。もしいつぞやの懸賞金が、あのような子供にかけられていたものだとすれば世も末だ。
奴が何を企んでるかは知らないが、ここは知らぬが吉。もはや、理解することでさえ嫌に思える。
俺たちは必死に逃げた。黒猫の正体を暴いてくれた月が、再び雲に隠されるより前に早くここから離れなければならない。でないと、化け物に襲われたのだと言い訳ができなくなってしまうから。
=☆☆=☆☆=☆☆=
静まり返った会議室。かつても、スーツを着た格式ある研究者が座っていたであろう椅子は、アルフェには大きすぎる気がした。
メールを送信し、きっちり30分。連なる椅子の上に、モニターが浮かび上がる。
「路地裏の耳、白猫、参上……」
「路地裏の目、三毛猫です」
「路地裏の牙、虎猫だ」
「路地裏の長。黒猫。一週間ぶりだね、みんな」
会議室の椅子に座るのは、黒猫ことアルフェ・ノーラただ一人。他は椅子の上に表示されるようモニターが浮かんでいる。それぞれ、白猫に三毛猫、虎猫を模したイラストが描かれているようだ。
「こんな時間に珍しいじゃねーか、黒猫。少なくとも定例会議はまだ先のはずだろ」
「そうだね、でも急を要するかもしれないからみんなを呼んだんだ。改めて、こんな夜遅くにごめんね」
「謝んな。お前がそこまで言うなら、よっぽどなんだろ。まさかだとは思うが、誰かがへまをしたわけじゃねぇよな?」
「だとしたら、へまをしたのは僕になるかなトラ。まずは事の経緯を説明する。昨夜のことなんだけど……」
緊急を要するほどの案件。それは、βグループもといスペルクラブとの接触があったこと。加えて、独断ながらこちらを探るように二度目の接触があったことだ。
「あー、なるほどつまり。黒猫んところの潜伏場所がばれた挙句、警戒対象になったことはほぼ確定と。さっきは謝んなとか言ったが訂正する。今度直接、俺たちの所に土下座しに来い」
「ちょっとちょっと、トラ。それは言い過ぎじゃない。これは最早不慮の事故でしょ?」
「そうかもしれないが、この事態は紛れもない黒猫が一番危惧してたものだろ。これ言っちゃなんだがよ、見殺しにすることはできなかったのかよ」
「だから、トラってば!」
「いいよ、ミケ。トラの言い分はごもっともさ。本来なら、スペルクラブの連中は僕らの敵のはずだからね」
モニター越しでも、ふつふつと怒りがにじみ出てるのが分かる。虎猫の名に恥じない圧力だ。とは言え、感じの悪い奴だが馬鹿ではない。いつも率先して意見を出してくれる、まとまりの悪い猫の集会を引き締めてくれるのも、いつだって彼だ。
「まあ、言い訳にしかならないけど、相手が元同僚でさ。あの場所にいい思い出はなかったけど、親友が傷つくところは、流石に見てられなくてね」
「親友?」
「……はぁ。まあ、お前らしいっちゃお前らしいか黒猫。だがなぁ、まさか俺たちの使命。忘れてねぇよな?」
「流石にね」
彼は、猫の集会の締め付け役。同時に数少ないアルフェの理解者だ。こういう時、他人の心情を思って理解してくれる心優しき猫だ。
「じゃあ、今後どうすんだよ。計画の方は?」
「前倒しでいくよ、少なくとも今月中から」
「だとしたら真っ先に、アーリーコアの調達しないとな」
「そうだね、そこのところはミケに……」
「ちょっと待って、二人とも」
気を取り直し、会議を進め要素したところで、再びミケが静止に入る。まだ何か懸念点があるとでも言うのだろうか。
「なんだミケ。まだ何か……」
「多分これシロちゃん、寝ちゃってるよね」
「あらら~?」
「うっそだろおい!?」
懸念も懸念。それこそ、会議を開いてから一言も喋らない白猫のモニター。よく耳を澄ますと、寝息のような音がかすかに聞こえてきた。
「相変わらずマーペースだな。シロの奴は」
「まぁ、これじゃあ会議は進められないし今日は解散で。次の会議は随時メールする」
「それはいいが、これだけは聞かせろ」
「なに、トラ」
「最初の標的、それは何処になると思う?」
「歴史工学博物館。その展示品、ロスト・アーム内のデータ抽出だよ」
「そうか、わかった」
トラの言葉を最後に、会議は終了した。各々のモニターが閉じられ、アルフェも部屋を退室していった。あとは、うんともすんとも言わない白猫のモニターが、暗い部屋で薄っすら光り続けていた。
「……ぅん。あれ、会議始まってた?」
そんな気の抜けた声が会議室に通るのは、ちょうど月が見えなくなる早朝だった。
今後どれぐらい忙しくなるかは分からんから、次回は一応未定。




