子供ながらの精神
久しぶりー、進学決まったよ。(*´ω`*)ヤッター。
我々には使命がある。アーリーコアを用いた不正や犯罪を断罪し、秩序を守る使命だ。
そんな志を背負いしスペルクラブ。その主力となるのがβグループなのだが、世間からは冷たい目を向けられている。
正義のための活動が何故、嫌われるのか。それは、純粋な恐怖のせいに他ならない。
いわば我々は「なまはげ」なのだ。悪い子はいねがと探して周り、子供達は今か今かと恐怖の中を過ごす。あれは伝統を重んじた行事だが、ここでは本物の制裁が与えられることになる。
子供も大人も泣き出す恐怖の集団。それがβグループを取り巻く共通認識なのだ。
それでも背負いし使命のため、今まで棘のある風評から目を背けて生きてきた。そんなクミは、直接聞かされる被害者の言葉に耐えられるのだろうか。
「ほれ、おまちどうさん。うちの特製豚骨ラーメンだ」
「あ、ありがとうございます」
こってりと脂が乗った、ラーメンが目の前に置かれた。濃いめの味は好きだが、どうも匂いが鼻を通らない。麺をすすれど、やはり味がしない。既にこれ程緊張しているのだから、先が思いやられる。
「さて、どこから話すべきか」
それにしても。この店主は、クミの正体に気づいていないのだろうか。それとも気にしていないのか。クミの存在を意にも返さず、店主は語り始めた。
「ツケってのは、私が不正アカウントを使ってたことだ。市場じゃ取り扱われてない、規定外のプログラムが組み込まれた物だな」
「ゲームでいう、チートプログラムのことだね。でも、私利私欲で使ってたアカウントじゃなかったでしょ」
「そうですとも。まあ、これも言い訳に過ぎないでしょうがね。スラム街に住む、困窮した人々への支援のために使っていました。決して、人を不幸にするようなことは……」
「わかってる、おかげでいつも助かってたんだから。でも、今後は配給の量も減っちゃうのか」
「すまんな、アルフェ君」
「謝らないでよ、別に問題ないから」
話を聞いてて、胃がもたれてくる。胸の内にある正義感が揺らいでるからだろうか、コッテリとしたラーメンのせいだろうか。せめて、後者であってほしい。
「ああ、嬢ちゃん。大丈夫かい。顔色が悪いが」
「すみません。ちょっと胃に負担が」
「ああ、悪い。いつもの感覚で作っちまったからな。野菜ラーメンにでもするべきだったか。とりあえず、お茶でも飲むか?」
「いただきます」
このお茶を手渡す先が、自身を追い込んだ組織と同じだと知った時。同じように接待してくれるだろうか。今はただ知らないだけかもしれない。だが、クミのとめどない想像力は、嫌な未来を掻き立てる。
「それにしても、初めましてだよね。新顔かい?」
「え、えっと……」
「彼女は違いますよ。メンバーじゃない」
「ああそうか。なるほど、すまない。今のは忘れてくれ」
「はぁ……?」
ちょっと気になる会話があったが、変に詮索されるよりはましだ。
「いや、すまないな嬢ちゃん。こんな陰気臭い話に巻き込んで。お詫びといえば何だが、今回の支払いはなくていいよ」
「いや、払いますよ。食べ切れるかわからないけど」
「店主。気持ちはありがたいですが、今は少しでも懐に余裕を持たないと」
「なに、大丈夫さ。お詫びと、今までのお礼も兼ねてだ。そういうわけだから、アルフェ君も遠慮なく食え」
「え、私の分もですか」
「ああ、そうだとも。それに今日はいいものを見れたしね」
「……?」
アルフェはわかってないようだが、ただの勘違いだ。その勘違いで奢る必要がなくなったのはいいが、店主だってあまり余裕もないだろうに。
「そうですね。クミさん、今日のところは甘えときましょう」
「え、いや」
断ろうとするクミに向けて、アルフェは口に指を当てる仕草を見せた。そして、そっと耳元に囁く。
『あとからでも、支援はできますから』
それを聞きハッとした。アルフェは店主を見捨てる気はなく、むしろ手厚い支援を返す。言わば恩返しのようなもの。
今の店主を支えられるほどの資金力が有るか無いかでいえば、あるのだろう。そうでなくとも、このゆるぎない目に嘘は見えなかった。
「さて、そろそろ食べ切らないと麺が伸びるから。クミは大丈夫?」
「ああ、大丈夫よ。結構楽になったから」
麺が伸びきらない内に、二人はラーメンにありついた。気分も優れ楽になった状態で食べるこのラーメンは、やはり胃もたれするほどに濃い味がした。
=☆☆=☆☆=☆☆=
ラーメンを完食し終わった二人は、店を離れ風当たりの良い公園のベンチに座っていた。どうも無理して食べたクミは腹を抱えて悶えてる様子。そんな彼女をいたわって、アルフェがここへ連れてきたのだ。
「なんかすみません。気軽に奢ってもらおうと言ったばかりに。まあ、無理に食べなくてもよかったとは思いますが……」
「注文する間もなく出された気がするけど」
「そうでしたね」
日が傾き、空模様が移り変わり行く。昨晩の事も含め、何とも壮大な一日だった。βグループの業務と比べても類を見ないほどに。それは言い過ぎだろうか。
とにかく今日は、いろいろと考えさせられたものだ。
「クミさん、気分はどうでしょうか。一人で帰れそうですか?」
「まあ、なんとかね」
「そうですか」
嘘だ。強がってはいるが、今すぐには帰れそうにない。ラーメンの脂身が胃に残ってるせいもあるが、それ以上に心身共に溜まった疲労が響く。グリム中隊長の予想の通り、少し休養するべきだったのだ。
改めて、自分はまだ子供なんだと自覚させられた。当然のことなのに、周りより大人びてたことと、過去に潜り抜けた修羅場の数々を得て、そこら辺の意識が麻痺してたのかもしれない。
「最後に、一つ聞いてもよろしいですか」
「ぇ……?」
最後に、という言葉にクミの肩が跳ねた。急に改まってなにを言うのかと、アルフェの目を見た。黄色い、猫のような鋭い目だ。
「あの、ラーメン屋の店主の話。アレを聞いて、どう思いましたか?」
「どう思ったか……」
不思議な感覚だった。あれだけ内心をかき回された時のことを聞かれているというのに、答えはサラッと出てくるのだから。
「あのラーメン屋の件。もし同じ案件に、今後私が駆り出されたとしても。結末は変えられない。アーリーコアは便利な反面、容易に人を壊せる代物だから」
「そうですよね。ごもっとも」
「ただ、もどかしいものよね。理解はできるのに納得できないのよ。おかげで戸惑ったわ」
「…………」
「でも、私の独断で勝手に止められないし止めるわけにもいかない。未来のため、過去にルールを歪めた事例を残すわけにはいかない。我々は、厳格で恐怖の対象でなければならない」
「……いいですね、ぶれない信念」
「なんかゴメン。あんたが望んだ答えじゃないでしょ」
「いいですよ。あの状況に遭遇したのだって偶然でしたし、変にこちら側へ懐柔する気もありませんよ。むしろ逆です」
「逆?」
「これからも、そのままでいてください。そしていつか、我々を止めてください」
「それって、どういう意味よ」
「そのままの汲み取ってもらって構いません。変に同情せず、信念が赴くままに判断し行動してくださいという意味です」
「…………」
「私そろそろ帰ります。クミさんも、暗くなる前には戻ることをオススメしますよ」
唖然としながら、クミは去りゆくアルフェの背中を見送った。
「……なによそれ」
アルフェの残した言葉。それは今日一番、納得できない言葉だった。
あんなに寂しげな表情を浮かべで言う程の事情。いったい彼は、どれだけ重い信念を抱えて生きているというのだろうか。
久しぶりすぎて、リハビリが少し続きますが、ある程度投稿は再開できるよう、努力します。




