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そのホログラムで敵を穿て  作者: フィング
4/10

その戦い、コングは腹の音

腹が減っては戦はできぬ。誰かがそう言ったらしい。


アルフェは思った。


なんて、贅沢な人なんだろう。

 日差しが少しずつ顔にかかってきたところで、アルフェは目を覚ました。時刻は昼過ぎころ。天にまで登った太陽が傾き始めたようで、ちょうど目の前の窓から光が差し込んできたのだ。


「寝過ごした。寝過ごしたみたいだ」


 少しだけ文面を変えながも、同じことを繰り返し言う。その日の出来事をより鮮明に覚えるための工夫だ。変な癖だとは薄々自覚しているが、直されることはないだろう。

 それを気にする人間はこの場におらず、指摘してくれる者もいない、家族がいないのだ。彼は、孤独だ。


「さて、飯でも食うか」


 こんな孤高の少年でも、悠々と生きていられる良い時代になったものだ。


 7年前、アーリーコアが世情に突如台頭した。


 何でも、アーリーコアが生み出すエネルギーは、あらゆる現象や物体を作り出すことができる。

 作り出すと言っても、所詮はホログラムだ。光の粒子が見せる偽物にすぎない。


 しかし、アーリーコアの実力は、予想の範疇を超えてくる。


 例えば火。アーリーコアによって実物にも劣らない熱をや、光がもたらされた。さらに、肌に触れても火傷しないよう、そういった()()は削除できる。人が意識するままに操れるのだ。


 再現できるもの火だけに留まらず、文字通り何でも再現してしまった。無論、そのまま電力に変わるエネルギーとしても活用されている。


 まさしく万能エネルギー。それを生み出すアーリーコアこそ、人類の最高傑作なのだ。


「…………腐ってる。これ、冷蔵庫の電源切れてるな」


 少し誇張しすぎたようだ。


 実のところ、アーリーコアは万能ではない。流石にまだ、永久電池と呼べる域にまで、達することはできていないのが現状だ。

 年月が経てば、当然古くなるし質も落ちる。そんな中古品が、ここスラム街で流通していた。それを利用するスラムの住人であるなら、こうして冷蔵庫が機能不全を起こすなんて日常茶飯事だ。


 アルフェは冷蔵を庫広い場所に移し、バラし始める。こういった作業も、アーリーコアがあれば余裕だ。工具を生成し意のままに操る様は、まるで魔法使いのようだった。実際昔はこれを魔法だと呼ばれ、もてはやされていたものだ。


「あー、やっぱり止まってる。また買う羽目になるのか。それより先に、ご飯もないのかー」


 内部には、ある丸い部品が取り付けられていた。これこそが、アーリーコアと呼ばれる代物だ。だがこれは、ヒビが入り冷たくなっていた。


 こうなってしまえば、誰にも直すことはできやしない。


「どうしよ、まずはご飯か。ご飯優先。それから考えよう。修理は後。腹が減って頭が回らん」


 変な口癖はあるが、普段からこんな言語体系ではない。単にエネルギー切れなのだろう。こういう時、日常を生きる活力さえも、アーリーコアによって補えたらと思う。


 結局は人である限り、苦労は絶えないものだ。


 腹を減らしたアルフェは、食料を求めてビルを降りていった。その間、乗り込んだエレベーターは静かで落ち着く。


 昨日やって来た訪問者には悪いが、必要に応じて電力は供給できる。もちろんアーリーコアによるものだが、操作はアルフェにしかできない。


 もしかすると、悪いことをしたのかもしれないと軽く後悔する。

 エレベーターを降りてからは、なぜ後悔してるのかを疑問に思う。あくまで彼らは、侵入者なのだ。やはり腹が減っているせいで思考がままならない。


「流石に配給は終わってるだろうし、飯は都会までいかないとだめだよな」


 遠い道を歩く他ないようだ。もっと早い移動手段こそあるが、今の状態じゃ事故を起こしかねなないだろう。それに、過去に敷かれた道路も今や廃れて、これまたヒビ割れている。


 本音は今すぐにでもご飯にありつきたい。まあ、限りなく安全な歩行手段も、今は使えそうにない。


 眠気が抜け切らなかった眼に突如光が灯る。それは、何もない空間へと向けられた。


「出てきてください。即席の迷彩とはいえバレバレですよ」


「……はいはい」


 誰もいなかった場所から声が発せられる。直後、空間が歪み少女は姿を表した。ポケットに手を突っ込み、口角を上げて微笑んでいる。見つかったというのに楽しそうだ。


「クミでしたっけ?」


「ふーん、名前覚えてたんだ」


「記憶力はいいほうなので」


「羨ましい」


 昨日、アルフェの住み着くビルに侵入してきた一人に、こんな顔がいたはずだ。それも、人質としてその身柄が囚われたことで、仲間にその名を叫ばれてたのが印象深い。


「何の用ですか。偵察の任についてるなら、こんな雑な隠れ方するはずありませんし。さては、独断で動いてますね?」


「もう、うるさい。仕事柄、バレただ捕まっただなんてこと言われるの凄く気に障るから」


「図星ですね。わざわざ、何のようでここまで?」


 お互い、表情にキレが見え始めた。もし、獲物を見つめる猛獣がいたら、このような目をしているのだろうか。

 そんな子供が二人、廃れたスラムの中心に佇む。その光景は異様で、それでいて近寄り難い空気が漂っていた。


「君の正体、暴きに来た」


「嫌だよ」


「気になるから、素直に暴かれて」


「抵抗するよ?」


「拷問します」


「君が?」


「私が」


「人質の分際で?」


「二回。もうこれ以上、言わせないよ」


「…………」


 アルフェは構えた。その手に武器はないが、代わりにモニターが掲げられている。アーリーコアを操作するための端末だ。

 クミもまた、腰を低くし戦闘態勢に入る。実のところ、ポケットに手を入れたままだ。恐らくその中に隠れて、アルフェと同じようにアーリーコアを操作しているのだろう。


 一体、どのような戦闘が繰り広げられるのだうか。


 例えば火。光と熱をいとも簡単に再現できる。そして、肌に触れても火傷しないよう、そういった機能を削除できる。

 表を返せば、触れただけで物体を一瞬の内に灰にもできる。まとわりついて、対象を()()させる事だってできる。


 つまり何でもできる。


 何が来てもいいよう緊張感を持って二人は構えた。その間に、戦いの火蓋を落とす不思議な音が鳴り響いた。

 獣のような、ただ確実にアルフェの腹の中から響いた音だ。


「……腹減ったな」


「なんで?」


 何でもできる者同士、唯一の弱点は脆弱な人間が本体である、この一点に尽きる。

腹が減れども戦は減らぬ。そんな世の中。


クミは思う。


人は、満たされない生き物だと。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます。 少なくともアルフェが有機体であることがわかって嬉しいです。 今後も少年を通じて本編の根幹が見えてきそうですね。 次回も楽しみです。
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