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そのホログラムで敵を穿て  作者: フィング
2/10

謎の少年、その名はアルフェ

 ここは静かだ、それが良い。


 叫んでも、壊しても、悪態ついても怒られない。


 というか、怒られた記憶がそもそもない。


 ならばなぜ、それを「良い」と語れるのか。


 失った過去を探るようで、これ以上考えれなかった。

 スラム街は荒廃した世界だ。本来、貧困の層を指し示す言葉だが、現代では経歴に泥がかかり世間から弾かれた者達の溜まり場となっている。

 だが不思議なことに、この地域の犯罪係数は少ない。ここスラムの様な陰湿な場所なら、犯罪集団などの潜伏地かアジトとして好まれそうなものだが、そういった報告もないのだ。


 さっするに、ここでは犯罪に対する抑止力となる存在がいるのではないだろうか。


「気をつけろ、常に周囲の警戒を怠るな」


 とあるビルの入口に怪しげな集団がやって来た。そのリーダー格と思われる大柄な男性は、周囲に警戒を促す。彼らこそ、(キラー)に追われ、アルフェに助けられた集団だ。


「でも、ここにいるだろう人って、僕たちを助けてくれた人ッスよね」


「お礼しに行くだけじゃないの」


 リーダーの警告に対し、その仲間は疑問を漏らす。純粋だが、(キラー)に追われてた身としては危機感が足りない様子だ。それもそのはず、彼らは未熟そのものと言える子供であった。


「そもそも、ここに仲間がいるという報告はない。つまり第三者が介入したということだ。助けた目的は何なのかわからない上に、敵かどうかも判断し難い」


「でも、助けてくれたのは事実じゃん」


「そうだな。そう、助けてくれた。あのアストラルK型を妥当した実力は本物だ。もし、その力を俺等に向けられでもしたら、勝つことができないだろう」


「……ッ!?」


「そ、それってグリム中隊長がいても……ですか?」


「……ああ」


 グリム中隊長と、そう呼ばれる彼の言葉に皆が息を飲んだ。子供達が危機感を取り戻したところで中隊長は指示を出す。


「アルとテトは下で見張りだ、何か異変が起これば俺等に知らせろ。残りのガーフとミント……そしてクミは、俺に付いてこい。上で奴にコンタクトをとる、極力戦闘は避けること」


「「「了解」」」


 子供達は中隊長の指示の下行動を始める。電気の通らぬこの場所で、エレベーターのありがたみを痛感しつつ四人は上へ向かった。


「……この階だな。人のいた形跡がある」


 階段はまだ上に続いていたが、この場所からでも下を十分に見渡せる距離があった。


「改めて見ると大きいですね。一体何の会社だったのでしょうか」


「確かここは、クロニク・ロボティクスの元本社だったはずだ。七年ほど前に倒産したがな」


「なるほどー。流石に古びてるけど、当時の資料とか機械も残されてるんだね」


 こんな廃墟、他からすれば幽霊だの呪いだのと見えない物に恐怖するかもしれないが、彼らは違う。そもそも、生まれ育った環境から違う。目に見える世界もまた変わるのだ。


 ただ一人、クミと呼ばれる少女は、とりわけ不思議な感性を持っているようだが。


「変な場所……」


 気分は探検、身近にない見慣れぬ機器には目を奪われ、ここでいったい何が成されていたのか興味が湧いた。何気なしに社員となったつもりで、布の被せられた場所に手を伸ばした。


「動くな……あー、動かないでください」


 しかし、布をつかもうとした手は空を握る。そして、首元には刃物が当てられていた。


「なっ……!」


「だ、誰だ!」


「落ち着けお前ら。あまり相手を刺激する真似はするな」


「流石。冷静ですね。グリム中隊長さん」


「……はっ、聞いてたのかよ」


「はじめまして、私はアルフェです」


 脅迫する声は幼く、掴む手は非力だった。だがクミにとっては、首に当てられた刃が異様に冷たく感じ、また空気も重く凍りつき、誰も動かなくなっていた。

 それが不思議でならなかった。なぜ動けないのか理解できなかった。だが体は理解してるのだろう。


 相手の持つ異質な雰囲気。そして、警戒するに値するプレッシャーが、アルフェと名乗る少年にはあるのだと。


「下での会話は聞かせてもらいました。それに補足入れさせてもらいます」


 何を言い出すのかと思えば、盗み聞いた事への訂正ときた。知らぬことだったとはいえ、もし相手が不快に思った事があればまずい。そうでなくとも、ひと一人安易に殺せる状況なわけなのだから。


 皆は息を呑んで、聞いた。


「敵かどうか判別がつかない、それはこちらも同様です。先程貴方を追っていた存在はアストラル・K(キラー)ってモデル。()()防衛を目的として作られた警備ロボットです。そんな物を扱うところなんて、ろくなところじゃない。そんな奴追われてたってことは、それなりのことを、()()()()()ということ」


「……そうかもな」


「そんなところに喧嘩を売る組織も、数は限られてる。その中で子供も戦力として扱うグループ。君たち、スペル・クラブだね」


「……っ!?」


 アルフェの言葉にまた警戒を強くする。何の脈略もなく人質をとったかと思えたが、その実、こちらの素性知った上での行為であったのだ。


「スペル・クラブの連中。いくつか派閥があるけど、その中での裏仕事を請け負う連中。通称、β(ベータ)グループ。強面のヤクザ達だよね」


「だ、だから何よ。うちら誰だかわかっているなら、早くクミから離れなさいよ。さもないと怖い報復が待ってるわよ」


「こ、コラ!」


「確かにこわーいですね。あんたらはその威厳にかけるけど。虎の威を借る狐って古い言葉があるけど、正直かわいいよあんたら」


「なんだとー!」


 あからさまな挑発だが子供には刺さる。確かに、前述された説明の割には、そこに説得力はない。子供を主力としたヤクザなど嘘であるほうが余程説得力があるというもの。

 しかし、それはアルフェ自身にも言えることだろう。むしろ、裏組織の「う」の字すら見当たらない彼こそ、その言葉に説得力は持てない。


 説得力は持てない。そう、そのはずなのだ。ひしひしと伝わってくる、大人びた空気のせいだろうか。いや、それは違う。


「子供だからってなめてるわけじゃない、私もまた大人に満たぬ歳。でも状況は、わきまえてください。早速ですがこちらの要望をお伝えします」


 アルフェから伝わるプレッシャーの正体とは即ち、あらゆる修羅場を乗り越えたことからくる自信の現れだ。そう確信できたのは、他でもないこの場で唯一の大人たるグリムのみだったが。


 静粛の中、息を呑む音が聞こえた。


 誰の発した音か、それは分からないが、誰もが緊張していることは明白だ。


「要望は一つ、それは……」


 人質を取られているが、それ以前にこちらを助けた恩もある。これら二つを元に何を要求するのかと思えば。


「出てって、んで帰って。こちとら眠い」


 こんな夜遅くにまで土足で入って来るなと、簡単な忠告であった。

良い子は、良き睡眠を。

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