第十章 全国
翌日。
全国中学校陸上競技大会。
男子100メートル予選。
隼はテレビの前にいた。
高瀬の組。
選手紹介。
画面に名前が並ぶ。
「来た。」
隼が少し身を乗り出す。
スタート。
――パンッ。
高瀬が飛び出す。
三十。
五十。
隣の選手と並ぶ。
七十。
まだ離れない。
ゴール。
結果。
1着。
11秒05。
2着。
高瀬。
11秒08。
隼が小さく拳を握る。
「よし。」
高瀬は予選通過。
続く他の組。
11秒12。
11秒15。
11秒17。
11秒19。
11秒20。
どの組も。
速い。
11秒2台でも。
予選で消えていく。
隼は画面を見ながら呟いた。
「全国って……。」
少し黙る。
「予選からこれかよ。」
今まで。
全国という言葉は知っていた。
速いやつが集まる場所。
それくらいだった。
でも。
画面に並ぶ数字を見ると。
その意味が少しずつ変わっていく。
そして。
準決勝。
隼はテレビの前から動かなかった。
高瀬。
自己ベスト。
11秒02。
画面に名前が映る。
「行け……。」
選手たちが構える。
「位置について。」
静まり返る。
「よーい。」
――パンッ。
スタート。
二十。
四十。
高瀬は前の集団。
六十。
七十。
前に三人。
そのすぐ後ろ。
高瀬。
「行け!」
隼の声が大きくなる。
八十。
九十。
一人に並ぶ。
ゴール。
結果。
1着。
10秒93。
2着。
10秒98。
3着。
11秒01。
4着。
高瀬。
11秒04。
隼の表情が止まる。
「……11秒04。」
自己ベストまで。
0.02秒。
ほとんど最高の走り。
それでも。
決勝には届かなかった。
画面の中。
高瀬が掲示板を見る。
悔しそうに唇を噛む。
隼は何も言わず、その姿を見ていた。
11秒04。
自分には。
まだ遠いタイム。
でも。
全国では。
決勝に残れない。
「……これでもダメなんか。」
全国。
その言葉が。
少し違って見えた。
しばらくして。
男子100メートル決勝。
高瀬の名前は。
もうない。
それでも。
隼はテレビの前にいた。
準決勝11秒04でも届かない決勝。
「どんな奴らが走るんや……。」
選手紹介。
三年。
三年。
二年。
そして。
隼の目が止まる。
「……一年?」
もう一度。
画面を見る。
一年。
自分と同じ学年。
「マジかよ……。」
決勝のスタートラインに。
一年生が立っている。
東京都代表。
隼は名前を知らなかった。
ただ。
同じ学年。
それだけで。
画面から目が離れなくなった。
選手たちが構える。
静まり返る競技場。
「位置について。」
「よーい。」
――パンッ。
一斉に飛び出す。
先頭は三年生。
そのすぐ後ろ。
数人が追う。
その中に。
あの一年生もいる。
「おい……。」
五十メートル。
まだ離れない。
七十。
前には三人。
その後ろ。
四番手。
隼がテレビに近づく。
「そのまま行くんか……!」
九十。
最後まで。
大きく崩れない。
ゴール。
結果。
1着。
10秒82。
2着。
10秒89。
3着。
10秒96。
4着。
11秒00。
隼は固まった。
「……11秒00?」
もう一度。
表示を見る。
一年。
東京都代表。
11秒00。
自分。
11秒34。
同じ学年。
差は。
0.34秒。
全国決勝。
4着。
高瀬でも。
決勝には届かなかった。
その決勝を。
自分と同じ学年の選手が走っている。
隼は。
テレビに映るその選手を。
ただ、じっと見ていた。
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