第72話:冬の通学路。ひとつのマフラーと触れ合う吐息
本格的な冬の寒さが肌を刺す通学路。うっかりマフラーを忘れてしまった俺の首元に、結衣が自分の巻いていた長めのマフラーをほどき、半分をくるりと巻きつけてきた。
「ほら、これで寒くないでしょ」
ひとつのマフラーで繋がれたことで、二人の距離は強制的にゼロになる。
歩幅を合わせるために肩と肩が触れ合い、結衣の吐く白い息が、俺の息と白く混ざり合って空へ溶けていく。マフラーから漂う彼女の甘い匂いと、歩くたびにコート越しに当たる柔らかな感触に、俺は柄にもなく心臓の音を早めていた。
「あら。ずいぶんと暖かそうね、二人とも」
不意に前を歩いていた人影が振り返り、ふわりと微笑んだ。
大人びた雰囲気と、コートを着ていても隠しきれない圧倒的なプロポーション。美月先輩だった。
「み、美月先輩……! こ、これはその、湊がマフラーを忘れたから……っ」
慌てて距離を取ろうとする結衣だが、マフラーで繋がっているため、逆に俺の腕に強く身体を引き寄せる形になってしまう。
俺の腕に、コート越しであってもはっきりとわかる彼女の柔らかな重みが押し付けられた。
そんな俺たちを見て、美月先輩は目を細め、どこか眩しいものを見るような、それでいて少しだけ寂しそうな笑みを浮かべた。
「ふふっ、いいのよ。……でもね、結衣ちゃん」
先輩はゆっくりと近づいてくると、結衣の背中にそっと手を添えた。
そして、俺を一瞥してから、結衣の耳元でわざと聞こえるように囁いた。
「天道くんは、素敵な男の子よ。結衣ちゃんがちゃんと捕まえておかないと……私、本当に奪っちゃうかもしれないからね?」
「えっ……」
結衣が固まった瞬間。美月先輩は結衣の背中を、ポンッと軽く前へ押し出した。
「わっ……!」
押し出された結衣の身体が、マフラーで繋がれた俺の胸の中にすっぽりと飛び込んでくる。
ドンッ、という軽い衝撃とともに、俺の胸板に結衣の身体がぴったりと密着した。分厚い冬のコートを隔てているのに、その奥にある熱量と、彼女の鼓動が直接流れ込んでくる。
「それじゃ、また学校でね。……天道くんも、風邪引かないようにね」
俺の胸にしがみつく結衣を見て、美月先輩はほんの少しだけ切なげに目を伏せ、ひらひらと手を振って歩き出した。
先輩がすれ違いざまに残していった、少し大人びたフローラルの香りと、彼女の微かな未練。
それが起爆剤となったのか、俺の腕の中で顔を真っ赤にしてうつむく結衣の体温が、マフラー越しにさらに熱を帯びていくのを感じていた。
【次回予告】
美月先輩に背中を押され、お互いをより強く意識し始めた湊と結衣。
放課後、生徒会室に呼び出された二人の前に、生徒会長の氷室凛音が静かに立っていた。
「……気づいているんでしょう? 私が、天道くんのことをどう思っているか」
いつもは余裕のある会長の、初めて見る真剣で、少しだけ潤んだ瞳。
凛音は結衣を真っ直ぐに見据えると、背後にある資料室のドアを開け、二人を中へと押し込んだ!
「少し頭を冷やしなさい。……次にドアを開ける時まで、私に諦めさせるだけの理由を見せてちょうだい」
鍵をかけられた狭く暗い資料室。
会長の切ない宣戦布告と優しさに背中を押され、逃げ場のない密室で二人の距離は限界まで近づいていく!
触れ合う肩、暗闇で重なる吐息。
次回、第73話『生徒会室の鍵。会長の強がりと暗がりでの密着』
明日も理性の崩壊をお楽しみに!




