第71話:看病のあと。気まずい距離感と自覚する熱
休日の午後。結衣の熱もすっかり下がり、俺の部屋にはいつものように二人の時間が流れていた。
しかし、空気はいつもと決定的に違っていた。
いつもなら、漫画を読んだりゲームをしたりする俺のすぐ隣に陣取る結衣が、今日に限って少しだけ距離を置いて座っているのだ。
カーペットの上に座る二人の間には、不自然な数十センチの隙間がある。
その微妙な距離感が、看病の日の記憶――熱に浮かされた彼女の潤んだ瞳や、パジャマ越しに伝わってきた信じられないほどの柔らかさと高熱――を、嫌でも脳裏にフラッシュバックさせる。
部屋の中には、暖房の微かな稼働音だけが響いている。
沈黙が息苦しい。ただの幼なじみだったはずなのに、一度意識してしまうと、彼女が髪を耳にかける些細な仕草や、服が擦れる微かな音すらも、やけに輪郭を帯びて俺の感覚を刺激してくる。
「あのさ、湊……」
不意に、結衣が沈黙を破った。
声はいつもよりずっと小さく、少し震えているように聞こえた。
「この間は、その……看病してくれて、ありがと。変なこと、言っちゃったかもだけど……」
結衣は俯いたまま、意を決したように手を伸ばし、俺のパーカーの袖口をそっと摘んだ。
そして、ほんの少しずつ、カーペットの上を滑るようにして俺の方へと身体を寄せてくる。
数十センチあった隙間が埋まり、俺の右腕に、結衣の肩が触れるか触れないかの距離まで近づいた。
直接肌が触れ合っているわけではない。それなのに、服越しに伝わってくる彼女の体温が、看病の時とは違う意味で俺の肌を熱く焦がしていく。
「……湊の匂い、やっぱり落ち着く」
結衣が上目遣いでこちらを見上げてきた。その頬は、熱もないのに林檎のように真っ赤に染まっている。
そして次の瞬間、彼女は俺の袖を掴んだまま、コテンと俺の肩に頭を乗せ、そのまま腕に体重を預けてきたのだ。
「っ……」
密着した右腕から伝わってくる、確かな重み。
看病の時のように全身で押し潰されるような激しさはない。けれど、結衣が恥ずかしさを誤魔化すように少し身じろぎするたび、俺の腕には彼女の柔らかな膨らみが、ゆっくりと、けれど確かな質量を持って押し付けられる。
シャンプーの甘い香りが鼻腔をくすぐる。
ただの幼なじみとしてのスキンシップとは明らかに違う、熱を帯びた密着。
触れ合う腕から流れ込んでくる彼女の鼓動が、俺の心音と重なり合い、静かな部屋の中でただひたすらに理性を甘く溶かしていくのだった。
【次回予告】
気まずい距離感を乗り越え、少しだけ関係が変化した湊と結衣。
本格的な冬の寒さの中、二人はいつものように並んで登校していた。
「湊、マフラー忘れたの? もう、しょうがないなぁ……ほら」
冷たい風が吹く通学路。結衣は自分が巻いていた長めのマフラーをほどき、半分を湊の首へと巻きつけてくる。
一つのマフラーを共有することで、二人の距離は強制的にゼロに!
「あったかい? ……なんか、こういうのドキドキするね」
歩幅を合わせるために身体が触れ合い、吐く白い息が混ざり合う。
マフラーで繋がれた首元から漂う結衣の甘い匂いと、歩くたびに腕に当たるコート越しの柔らかな感触。
いつもの通学路が、逃げ場のない甘い密着空間に変わる!
次回、第72話『冬の通学路。ひとつのマフラーと触れ合う吐息』
明日も理性の崩壊をお楽しみに!




