第21話:ポンコツ令嬢の手作り弁当と、赤面膝枕の甘い罠
昼休み。俺が購買でパンを買おうと廊下を歩いていると、行く手を遮るように一人の少女が立ちはだかった。
「お待ち遊ばせ、天道湊!」
腕を組み、金糸のブロンドを揺らしながら見下ろす(実際は俺より少し背が低いのだが)のは、学園の最大出資者の令嬢であり、常に高飛車な態度を崩さない西園寺麗華だ。
「西園寺? どうしたんだよ、そんなところで」
「べ、別に! ただ、うちの専属シェフが作りすぎた料理が余っていたから、庶民のあなたに恵んであげようと思っただけですわ!」
そう言って彼女が突き出してきたのは、高級そうなシルクの風呂敷に包まれた、少しばかり形のいびつなお弁当箱だった。
しかし、俺の視線は弁当箱ではなく、それを差し出す麗華の白く細い指先に釘付けになった。いくつもの絆創膏が、痛々しく貼られていたのだ。
「西園寺、その指……」
「こ、これは違いますわ! 愛猫と戯れていたら引っ掻かれただけで……っ、いいから早く受け取りなさいな!」
顔を真っ赤にしてそっぽを向く麗華。その耳まで赤く染まっているのを見て、俺は全てを察した。
俺たちは誰もいない中庭のガゼボ(西洋風の東屋)へと移動し、弁当箱を開いた。
中には、少し焦げた卵焼きや、形が不揃いなタコさんウィンナーがぎっしりと詰まっていた。専属シェフの料理には到底見えない、明らかに不器用な彼女が一生懸命作った『手作り弁当』だ。
「ほら、口を開けなさい。わたくしが直々に食べさせてあげますわ」
「えっ? いや、自分で食えるけど……」
「口答えは許しません! ほら、あーん、ですわ!」
麗華は俺の隣のベンチにピタリと座り、箸で卵焼きをつまんで俺の口元へと運んできた。
その瞬間、彼女の身体が大きくこちらへ傾き、制服のブラウスの胸元から、スレンダーな体型からは想像もつかないほど豊かな双丘の深い谷間が覗き込んだ。
さらに、彼女が腕を伸ばす体勢になったことで、その極上の柔らかさが俺の二の腕にムギュリと容赦なく押し当てられたのだ。
「っ……!」
ダマスクローズの高級な香りと、腕に直接伝わる暴力的な弾力。
俺は動揺をごまかすように、差し出された卵焼きをパクリと口に入れた。
「……どう、ですの?」
不安げに、上目遣いで覗き込んでくる麗華。
「ああ。少し焦げてるけど、すげえ美味いよ。西園寺、朝早くから頑張ってくれたんだな」
「っ……! べ、別に、あなたのために朝四時に起きて作ったわけじゃ……ハッ!?」
自ら墓穴を掘って顔を茹でダコのように赤くした麗華は、恥ずかしさをごまかすように、突然俺の太ももへと自分の頭を乗せてきた。
「うおっ!? 西園寺!?」
「う、うるさいですわ! 寝不足で疲れたから、少し休むだけです! 決して、あなたに膝枕をしてほしいわけじゃありませんわよ!」
俺の太ももに仰向けに寝転がった彼女は、両手で顔を覆い隠しているが、その指の隙間からは真っ赤に染まった素肌が見えている。
だが、俺にとっての真の試練はここからだった。
下から見上げる形になった麗華の胸元。重力に従って横に流れるはずの果実は、その圧倒的な質量のせいでブラウスを内側からパンパンに張り詰めさせ、下から見下ろす俺の視点だと、その暴力的な起伏がこれでもかと強調されていたのだ。
「んっ……少し、硬いですわね」
さらに悪いことに、麗華がより心地よいポジションを探そうと、俺の太ももの上で身じろぎを始めた。
後頭部が俺の下腹部付近に擦れ、動くたびに彼女の甘い吐息と香りが下から立ち上ってくる。
「おい、西園寺、あんまり動くな……っ」
「なんでですの? わたくしが休んでいるんですから、あなたは大人しくクッションになっていれば……あっ」
俺の脚が微かに震え、危険な熱を帯びていることに気づいたのか、麗華の動きがピタリと止まった。
覆っていた手をゆっくりとどけ、下から俺を見上げてくる潤んだ瞳。
「天道湊……あなた、わたくしの無防備な顔を見て、よからぬことを考えてますわね……?」
「ち、違う! これは不可抗力で……!」
「ふふっ……まあ、いいですわ。わたくしの魅力に当てられてしまったのなら、仕方ありませんわね」
怒るかと思いきや、麗華は悪戯っぽく、そして酷く艶やかに微笑み、さらに俺の太ももへすり寄るように顔を埋めてきた。
高飛車なお嬢様の隠されたデレと、膝の上からダイレクトに伝わってくる強烈な熱と柔らかさ。
午後の授業のチャイムが鳴るまで、俺の理性はまたしても過酷すぎる試練にさらされ続けるのだった。




