第2話:満員バスの不可抗力
朝の通学バスは、今日も地獄のようなすし詰め状態だった。
「うぅ……苦しいよぉ、湊」
俺の胸元で、結衣が弱々しい声を漏らす。
「我慢しろ。もう少しで着くから」
俺は結衣を壁際へと追いやり、両手で壁にドンと手をついて彼女を守るスペースを作っていた。いわゆる『壁ドン』の体勢だが、ロマンチックな要素は皆無だ。周囲からの圧を俺の背中で受け止めているため、腕の筋肉が悲鳴を上げている。
しかし、そんな俺の努力をあざ笑うかのように、バスが急カーブに差し掛かった。
ギュルルンッ!
「うおっ!」
「きゃっ!」
激しい横揺れと、乗客たちの雪崩れ込むような重み。それに耐えきれず、俺の腕のつっかえ棒はあっさりと崩れ去った。
ドンッ、という鈍い音とともに、俺の身体は結衣に完全にのしかかる形になってしまう。
「ご、ごめん結衣! 痛くなかったか!?」
「ううん、大丈夫……だけど」
ただでさえ近かった二人の距離が、ついにゼロになった。
制服の生地を隔てただけの状態で、結衣の豊満な双丘が俺の胸板にムギュウゥッと容赦なく押し潰されている。
「っ……!」
俺は息を呑んだ。
結衣の身体は驚くほど柔らかく、そして温かい。押し付けられた胸の弾力が、バスの振動に合わせて形を変え、俺の鼓動と重なってドクドクと脈打っているのがダイレクトに伝わってくるのだ。
「離れられなくて、ごめん。早く体勢立て直すから」
「いいよ……このままで。湊の匂い、落ち着くし……」
結衣は顔を真っ赤に染めながらも、なぜか俺のシャツの裾をきゅっと強く握りしめてきた。
下から見上げてくる彼女の瞳はとろんと潤んでおり、そこには無防備すぎる『熱』が宿っていた。ふわりと漂う甘いシャンプーの香りと、首筋を直接くすぐる結衣の吐息。
(おいおいおい、嘘だろ……)
ここは満員バスの中だ。周囲には他の生徒や一般客が密集している。そんな公衆の面前で密着しているという背徳感が、脳内麻薬をドバドバと分泌させ、さらなる興奮を煽ってくる。
さらに悪いことに、バスがガタガタと揺れるたびに、二人の身体は必然的に擦れ合った。
「んっ……あ……」
摩擦が生じるたび、結衣の口から微かに甘い声が漏れる。俺の胸に押し付けられた柔らかい果実が、無慈悲に擦り付けられる感触。それはもはや、理性を試す拷問以外の何物でもなかった。
(落ち着け俺! 平常心だ! ここで反応したら社会的に終わる!)
下半身へ向かおうとする血液を必死に押し留めるため、俺は天井を仰ぎ見ながら、再び円周率を限界の速度で唱え続けるのだった。




