あかつきエレファント 其ノ陸①
不覚にも、コンビニも二夜連続となってしまった。
幸いにして店員は昨夜と違う人だったので、「こいつ、今日も来てらー」みたいな顔をされることはなかった。
魅子はまるで昨日の再現のように、袋を渡した途端にポテチを取り出して封を切り、幼女のように喜んでポテチを食べている。
間違えることなく『うすしお味』を買ってきたので、僕は絶交されずに済んでいる。
――今のところは。
人間万事塞翁が馬と言うし、何が起きるか分からない。
未だに素性のよく分からない彼女だ。
いつ逆鱗に触れたり、地雷を踏んだりするか、分かったものじゃない。
「せっかく友達になったことだし、色々と訊きたいことがあるんだけど……」
「なんじゃ、儂に興味津々じゃの。良いぞ、何でも訊くがよい。スリーサイズぐらいは答えるにやぶさかでないぞ」
「マジですか?」
「マジマジ、大マジ、マジ卍じゃ」
「じゃあ……バスト、お願いしゃーす!」
「『大』じゃ」
「大?」
「そうじゃ、『大』じゃ」
魅子が両手で、その『大』を持ち上げる。
「いや、その……大きいのは分かるけど、もう少し細分化して欲しいと言うか、むしろそっちの方が標準だと思うけど」
「そんなものは知らんわ」
「知らない? それはないでしょ。下世話な話、それだとブラジャーが買えないと思うんですけど」
「そんなもん、付けておらんわ」
「マジですか?」
「マジマジ、大マジ、マジ卍じゃ」
「ノーブラじゃないですか!」
「ノーブラじゃ」
まさかの衝撃的カミングアウトだった。
ひゃっほーい!
ノーブラということは、もしや、もしかすると、もしかするのか。
もしかするのかもしれない!
「ノーパンですか?」
「ノーパンじゃ」
ひええええええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーい!
ノーパン、ノーブラだってよ!
痴女じゃねえか!
やべえよ、この人。
……なんて、さすがに僕も馬鹿じゃない。
ノーブラはあるにしても、ノーパンはないだろ。
いや、普通はノーブラもないか。
とは言え、確かめる必要はあるのではなかろうか。
いや、ある!
「本当かどうか怪しいので、その袴の中を見せてもらってもよろしいでしょうか?」
僕もただの変態だった。
「構わんぞ」
「構わないのか!」
「ただし、金は取るぞ」
「ちなみに、おいくらでしょうか?」
「二億じゃ」
「二億!」
遊女かよ。
払えるわけねーだろ。
「……一生掛けても払えるかどうか分からないので、とりあえず信じることにします。で、痴女さん」
「誰が痴女じゃ! 殺すぞ、貴様」
「殺さないでください。すみませんでした」
怖いよ、怖すぎるよ。
ちょっとしたジョークで殺されちゃうのかよ。
やっぱり友達じゃないよな、僕たち。
「……話を戻す、というか僕が元々訊きたかったことが始まってないから、話を始めるんだけど。魅子のその喋り方は、方言的なやつなのか?」
「趣味じゃ」
趣味だったのか。
全く乱れのない流暢な喋り方だが、相当年季が入っているのかもしれない。
「訊くまでもないけど、金髪に染めてるのは?」
「趣味じゃ」
そりゃ趣味だよな。
それ以外で髪を染めるなんて、白髪染めくらいしかないよな。
「じゃぁ、その巫女姿は?」
「趣味じゃ」
やっぱ趣味かー。
コスプレってことだな。
「こんな場所に来るのは?」
「趣味じゃ」
これも趣味なのか。
神社跡という特殊な場所でノスタルジーに浸るみたいな――。
って、そんなわけあるか!
そんな趣味聞いたことねーよ!
まぁ、趣味は人それぞれだし、ないとは言えないけれど、どうも怪しいんだよな。
さっきから『趣味じゃ』しか言ってないし。
一応、確かめておくか。
「ポテチは?」
「美味じゃ」
「水は?」
「無味じゃ」
「魅子は?」
「神じゃ」
「僕は?」
「ゴミじゃ」
なるほど、テキトーに答えていたわけじゃないらしい。
後ろの二問は大いに異論の余地があるけれど(特に最後の問いな!)。
しかし、ますます分からないな、この人。
ミステリアスの域を超えてる――というか、域に収まってない。
謎が多すぎる。
けど、ノーパンノーブラで夜道を歩く人がいるように、人には人の事情ってものがあるし、魅子にも事情ってものがあるのかもしれないな。
女性が話したくないことをあれこれと詮索するのは、野暮ってもんだ。
これ以上は訊くまい。
僕、紳士だから。




