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禍い物  作者: 青野 乃蒼
あかつきエレファント

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8/13

あかつきエレファント 其ノ伍

翌晩、僕は昨晩に引き続き神社跡に来ていた。


二夜連続である。


二夜連続って、何かちょっと特別というか、レアな感じするよな。



あれ?


もしかして僕だけ?



ともあれ、僕が二夜連続で神社跡に来たのは、魅子のナイスバディを見たかったからではない――こともない。



つまり、ある。



そりゃそうだろう? 


僕はいたって平凡で血気盛んな、お年頃の男子高校生だぜ?


美人の顔と体を生で拝められるとあっちゃ、是も非もない。


万難を排して通い詰めるぜ。



――が、しかし、それが最大の理由ではない。


単に言われたのだ。


魅子に。


明日も来いと。


一週間は来いと。


まぁ、僕は暇と体力を持て余しているし、そもそも深夜の散歩はルーチンワークみたいなところもあって、一週間分の散歩コースが事前予約されるだけのことなので、二つ返事で了承したのだけれど。




そういうわけで、二日目。


白衣に緋袴の巫女姿をした魅子と逢瀬――もとい、仰せの通り、神社跡にいるのだった。


「貴様、手土産はないのか?」


「手土産? 昨日、そんなもん頼まれたか? 僕は記憶にないんだけど」


「馬鹿者、口に出して図々しく『手土産持って来い』と頼むやつがどこにおるんじゃ」



『手土産はないのか?』と訊いてる時点で、言ってるようなもんだろ。図々しいだろ。


それに普通は思ってても訊かねーよ。図々しいよ。



「手土産は心遣いじゃろが。言われんでも、気を利かせて持って来んか。これじゃから貴様は友達がおらんのじゃ」 


「学生同士で毎度手土産を渡さないといけないような友達なんて、友達じゃねーよ!」



そんなもん、会社の取引先じゃねーか!


精々相手の家にお邪魔する時くらいだろ!


ここ、お前の家じゃねーしな!


てか友達いないのはほっとけ!



「人間はミスをするもんじゃからの。ミスをするのが人間、ミスしてこそ人間とも言えるの。じゃからこれぐらいの失態で、貴様の名誉が失墜することはないから安心せい。まぁ、貴様に失墜するほどの名誉なんぞ無いんじゃが」


「無いのかよ!」



ないって言っちゃったよ、言いきっちゃったよ。


ひどいな、ひどすぎるぜ、魅子さん。


まぁ合ってるけどな、実際無いんだけどな。



「じゃが、貴様にも矜持というものがあろう? プライドと言ったほうが分かりやすいのかの。十数年掛けて曲がりに曲がった歪で醜悪なそのプライドを、堅守する神経は儂にはさっぱり分からんが、お(めー)の汚名を返上しておきたいと思うじゃろ? じゃから、貴様にチャンスをやる」


はは、と軽快に笑う魅子。


全くもって笑えない僕。



別に上手くないし。


汚名を返上しておきたいとも思ってないし。


傷ついたのは名誉じゃなくて、僕の心の方だし!



「今からポテチを買って来い!」



結局そうなるのかよ!


しかも、和菓子じゃないのかよ!



「うすしお味の! 間違っても『しあわせパンチ』みたいな感じの名前で、味の想像がつかん、いかにも期間限定のものを買って来るでないぞ。あれは邪道じゃ、外道じゃ」



その意見を否定するつもりはないし、僕も王道派なのでどちらかと言えば賛同するけれど、さすがに言いすぎだろ。


企業努力まで否定しちまってるようにも見えるぜ。


製品開発に携わった皆さん、号泣必至だよ。



「ほれ、早よ行かんか。ポチ」


「僕をお前の飼い犬みたいに呼ぶなよ!」


「じゃあ、ジジ」


「種類の問題じゃねーよ!」



犬がダメなら猫って発想がもう安直だよな。


つーか僕、友達じゃなくてペットに成り下がってんじゃねーか。



「なんじゃ貴様、イヤイヤ期か? めんどくさいのー。カレー作りにハマった中年男ぐらいめんどくさいの」



めんどくささは十分伝わってきたのだけれど、結局のところ僕、赤ちゃんなの? 中年なの? 



「ところで、今日はなんでポテチなんだ? てっきり和菓子が好きなんだと思ってたけど」


「和菓子は好きじゃが、じゃからと言って他のジャンルを食わんというわけじゃないぞ。貴様もそうじゃろ?」


「確かに。言われてみればそうだな」


「ちなみに、儂が一番好きなのは『人の不幸』じゃ。蜜の味と言うのは言い得て妙じゃわい、はは」



訊いてねーよ。


上手くねーよ。



「で、ポテチの話じゃったの。儂がポテチを食べたいと思うたのは、『プライド』と言うた時に頭の中で『フライド』に変換されて、そこから『フライドポテト』になって、最後に『ポテトチップス』に行きついたからじゃ」



しょうもな。


さっさと行くか。




鳥居をくぐったところで、今夜も背後から声が響いた。


「うすしお味じゃぞ! フリじゃないからの! 違うもんを買ってこようものなら、絶交じゃからの!」


怖いこと言うなよ。


友達二日目にして絶交なんて早すぎるよ。


もはや友達だったのは幻だったんじゃないかと思えちまうぜ。

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