あかつきエレファント 其ノ伍
翌晩、僕は昨晩に引き続き神社跡に来ていた。
二夜連続である。
二夜連続って、何かちょっと特別というか、レアな感じするよな。
あれ?
もしかして僕だけ?
ともあれ、僕が二夜連続で神社跡に来たのは、魅子のナイスバディを見たかったからではない――こともない。
つまり、ある。
そりゃそうだろう?
僕はいたって平凡で血気盛んな、お年頃の男子高校生だぜ?
美人の顔と体を生で拝められるとあっちゃ、是も非もない。
万難を排して通い詰めるぜ。
――が、しかし、それが最大の理由ではない。
単に言われたのだ。
魅子に。
明日も来いと。
一週間は来いと。
まぁ、僕は暇と体力を持て余しているし、そもそも深夜の散歩はルーチンワークみたいなところもあって、一週間分の散歩コースが事前予約されるだけのことなので、二つ返事で了承したのだけれど。
そういうわけで、二日目。
白衣に緋袴の巫女姿をした魅子と逢瀬――もとい、仰せの通り、神社跡にいるのだった。
「貴様、手土産はないのか?」
「手土産? 昨日、そんなもん頼まれたか? 僕は記憶にないんだけど」
「馬鹿者、口に出して図々しく『手土産持って来い』と頼むやつがどこにおるんじゃ」
『手土産はないのか?』と訊いてる時点で、言ってるようなもんだろ。図々しいだろ。
それに普通は思ってても訊かねーよ。図々しいよ。
「手土産は心遣いじゃろが。言われんでも、気を利かせて持って来んか。これじゃから貴様は友達がおらんのじゃ」
「学生同士で毎度手土産を渡さないといけないような友達なんて、友達じゃねーよ!」
そんなもん、会社の取引先じゃねーか!
精々相手の家にお邪魔する時くらいだろ!
ここ、お前の家じゃねーしな!
てか友達いないのはほっとけ!
「人間はミスをするもんじゃからの。ミスをするのが人間、ミスしてこそ人間とも言えるの。じゃからこれぐらいの失態で、貴様の名誉が失墜することはないから安心せい。まぁ、貴様に失墜するほどの名誉なんぞ無いんじゃが」
「無いのかよ!」
ないって言っちゃったよ、言いきっちゃったよ。
ひどいな、ひどすぎるぜ、魅子さん。
まぁ合ってるけどな、実際無いんだけどな。
「じゃが、貴様にも矜持というものがあろう? プライドと言ったほうが分かりやすいのかの。十数年掛けて曲がりに曲がった歪で醜悪なそのプライドを、堅守する神経は儂にはさっぱり分からんが、お前の汚名を返上しておきたいと思うじゃろ? じゃから、貴様にチャンスをやる」
はは、と軽快に笑う魅子。
全くもって笑えない僕。
別に上手くないし。
汚名を返上しておきたいとも思ってないし。
傷ついたのは名誉じゃなくて、僕の心の方だし!
「今からポテチを買って来い!」
結局そうなるのかよ!
しかも、和菓子じゃないのかよ!
「うすしお味の! 間違っても『しあわせパンチ』みたいな感じの名前で、味の想像がつかん、いかにも期間限定のものを買って来るでないぞ。あれは邪道じゃ、外道じゃ」
その意見を否定するつもりはないし、僕も王道派なのでどちらかと言えば賛同するけれど、さすがに言いすぎだろ。
企業努力まで否定しちまってるようにも見えるぜ。
製品開発に携わった皆さん、号泣必至だよ。
「ほれ、早よ行かんか。ポチ」
「僕をお前の飼い犬みたいに呼ぶなよ!」
「じゃあ、ジジ」
「種類の問題じゃねーよ!」
犬がダメなら猫って発想がもう安直だよな。
つーか僕、友達じゃなくてペットに成り下がってんじゃねーか。
「なんじゃ貴様、イヤイヤ期か? めんどくさいのー。カレー作りにハマった中年男ぐらいめんどくさいの」
めんどくささは十分伝わってきたのだけれど、結局のところ僕、赤ちゃんなの? 中年なの?
「ところで、今日はなんでポテチなんだ? てっきり和菓子が好きなんだと思ってたけど」
「和菓子は好きじゃが、じゃからと言って他のジャンルを食わんというわけじゃないぞ。貴様もそうじゃろ?」
「確かに。言われてみればそうだな」
「ちなみに、儂が一番好きなのは『人の不幸』じゃ。蜜の味と言うのは言い得て妙じゃわい、はは」
訊いてねーよ。
上手くねーよ。
「で、ポテチの話じゃったの。儂がポテチを食べたいと思うたのは、『プライド』と言うた時に頭の中で『フライド』に変換されて、そこから『フライドポテト』になって、最後に『ポテトチップス』に行きついたからじゃ」
しょうもな。
さっさと行くか。
鳥居をくぐったところで、今夜も背後から声が響いた。
「うすしお味じゃぞ! フリじゃないからの! 違うもんを買ってこようものなら、絶交じゃからの!」
怖いこと言うなよ。
友達二日目にして絶交なんて早すぎるよ。
もはや友達だったのは幻だったんじゃないかと思えちまうぜ。




