あかつきエレファント 其ノ肆②
「……分かりました。けど、このままで大丈夫なんですか?」
五百城さんは首を傾げる。
「何がじゃ?」
「何がって……僕に霊が憑いてるんですよね?」
「なんじゃ、貴様ビビッておるのか。だらしないの。度胸のない男は嫌われるぞ」
僕、めっちゃ嫌われるじゃないですか。
まぁでも、心当たりがないわけではないですけどね。
今まで彼女なんていたことないですけどね。
「それも安心せい。これまで長いこと憑いておったんじゃから、貴様に霊が憑いておることを貴様が知ったところで、何も変わらんわ」
五百城さんの意見は、もっともだった。
不調の原因を認知したところで、症状が改善したり悪化したりなんてことはないもんな。
そんなことが有り得るなら、薬なんていらないもんな。
僕は得心して、安心した。
思わず安堵の息が漏れる。
「……それなら、良かったです。それが知れたので、とりあえず今日は眠れそうです」
「はは、まったく、貴様は小心じゃの。まぁ、人間らしくて儂は好きじゃがの」
あれ、てっきり『嫌われるぞ』って嫌味を言われると思っていたのに。
むしろ言われると思って、ちょっと身構えていたのに。
いきなり『好き』だなんて言われたら、キュンってなっちゃうじゃないですか。
ときめいちゃうじゃないですか。
なんて、さしもの僕もそこまで見境がないわけじゃない。
お開きと言われたので、僕は帰ろうと五百城さんに背を向けようとした時、
「最後に一つ言っておくがの」
と、五百城さんは言って、僕の動きを制した。
あれあれ、五百城さん。
その言い方ですと、最後に忠言的なことを言って、僕に釘を刺す流れではありませんか?
せっかく打ち解けて和やかな雰囲気になったのに、帰り際に醒めた感じになるのは嫌なんですけれど。
「儂に敬称はいらんぞ」
「へ?」
「『へ?』とはなんじゃ。そんな返事の仕方はないじゃろ」
「すみません。ちょっと身構えていたもので……」
「まぁ、良い。ちょっと呼んでみよ」
「いきなり言われても……」
年上の女性を呼び捨てにするのは、いささか抵抗がある。
「名前を呼ぶくらい簡単じゃろうが。早よ言うてみよ」
「えっと……、五百城」
「違うわ、下の名前じゃ」
「……魅子」
「愛いの! 愛い愛い。良好じゃ。それともう一つあるんじゃが」
もう一つあるのかよ!
僕はダメで、自分は二つ目もいいのかよ!
「敬語も不要じゃ」
「それはまぁ、ちょいちょい敬語じゃない時があったし、ちょっと意識すれば使わないようにはできますけど」
「それで良い。たまに出てしまうのは許そう。もっと親しくなれば、意識せずとも敬語なぞ使わんようになるじゃろうしの」
「ありがとうござ――」
ゴホン、と一つ咳払い。
「ありがとう。でも、なんでそこまでフラットな交流に拘るの?」
……僕の喋り方、キモいな。
年上相手に、いきなり全開に砕けるのはやっぱり抵抗がある。
もっと親しくならないと、案外難しいかも。
「貴様と友達になろうと思うての」
「友達?」
「そう、友達じゃ。友達なら敬語なんぞ使わんじゃろ? だからじゃ」
「それは、そうだけど。でも、なんでまた友達?」
「なんじゃ貴様、儂と友達になるのが不満か? 友達なぞおらんくせに、選り好みしおって。何様のつもりぞ」
「そんなことしてない! 不満でもない! 魅子さんと友達になれるなんて、これ以上の幸せはありません!」
「はは、そうじゃろう、そうじゃろう。これからもよろしく頼むぞ」
「こちらこそ、よろしく」
魅子と別れて、僕は家路につく。
今日は内容の濃い散歩だった。
カルピスの原液をそのまま飲んじゃった時くらい濃いぜ。
しかし、結局のところ、よく分からないままなんだよな、魅子って人。
美人なのに老女みたいな話し方だし。
巫女姿なのにプリンみたいな頭してるし。
いい年の大人なのにコスプレ衣装で深夜の神社に一人で来てるし。
幽霊見えるし。
僕に友達がいないの知ってるし。
まぁ、いい人なのは間違いないけどな。
家に着いて、僕は大事なことを忘れていたことに気づく。
「どら焼き代、請求するの忘れた」




