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禍い物  作者: 青野 乃蒼
あかつきエレファント

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7/13

あかつきエレファント 其ノ肆②

「……分かりました。けど、このままで大丈夫なんですか?」


五百城さんは首を傾げる。


「何がじゃ?」


「何がって……僕に霊が憑いてるんですよね?」


「なんじゃ、貴様ビビッておるのか。だらしないの。度胸のない男は嫌われるぞ」



僕、めっちゃ嫌われるじゃないですか。


まぁでも、心当たりがないわけではないですけどね。


今まで彼女なんていたことないですけどね。



「それも安心せい。これまで長いこと憑いておったんじゃから、貴様に霊が憑いておることを貴様が知ったところで、何も変わらんわ」



五百城さんの意見は、もっともだった。


不調の原因を認知したところで、症状が改善したり悪化したりなんてことはないもんな。


そんなことが有り得るなら、薬なんていらないもんな。


僕は得心して、安心した。


思わず安堵の息が漏れる。



「……それなら、良かったです。それが知れたので、とりあえず今日は眠れそうです」


「はは、まったく、貴様は小心じゃの。まぁ、人間らしくて儂は好きじゃがの」



あれ、てっきり『嫌われるぞ』って嫌味を言われると思っていたのに。


むしろ言われると思って、ちょっと身構えていたのに。


いきなり『好き』だなんて言われたら、キュンってなっちゃうじゃないですか。


ときめいちゃうじゃないですか。


なんて、さしもの僕もそこまで見境がないわけじゃない。



お開きと言われたので、僕は帰ろうと五百城さんに背を向けようとした時、


「最後に一つ言っておくがの」


と、五百城さんは言って、僕の動きを制した。



あれあれ、五百城さん。


その言い方ですと、最後に忠言的なことを言って、僕に釘を刺す流れではありませんか?


せっかく打ち解けて和やかな雰囲気になったのに、帰り際に醒めた感じになるのは嫌なんですけれど。


「儂に敬称はいらんぞ」


「へ?」


「『へ?』とはなんじゃ。そんな返事の仕方はないじゃろ」


「すみません。ちょっと身構えていたもので……」


「まぁ、良い。ちょっと呼んでみよ」


「いきなり言われても……」


年上の女性を呼び捨てにするのは、いささか抵抗がある。


「名前を呼ぶくらい簡単じゃろうが。早よ言うてみよ」


「えっと……、五百城」


「違うわ、下の名前じゃ」


「……魅子」


()いの! 愛い愛い。良好じゃ。それともう一つあるんじゃが」



もう一つあるのかよ!


僕はダメで、自分は二つ目もいいのかよ!



「敬語も不要じゃ」


「それはまぁ、ちょいちょい敬語じゃない時があったし、ちょっと意識すれば使わないようにはできますけど」


「それで良い。たまに出てしまうのは許そう。もっと親しくなれば、意識せずとも敬語なぞ使わんようになるじゃろうしの」


「ありがとうござ――」


ゴホン、と一つ咳払い。


「ありがとう。でも、なんでそこまでフラットな交流に拘るの?」



……僕の喋り方、キモいな。


年上相手に、いきなり全開に砕けるのはやっぱり抵抗がある。


もっと親しくならないと、案外難しいかも。



「貴様と友達になろうと思うての」


「友達?」


「そう、友達じゃ。友達なら敬語なんぞ使わんじゃろ? だからじゃ」


「それは、そうだけど。でも、なんでまた友達?」


「なんじゃ貴様、儂と友達になるのが不満か? 友達なぞおらんくせに、選り好みしおって。何様のつもりぞ」


「そんなことしてない! 不満でもない! 魅子さんと友達になれるなんて、これ以上の幸せはありません!」


「はは、そうじゃろう、そうじゃろう。これからもよろしく頼むぞ」


「こちらこそ、よろしく」





魅子と別れて、僕は家路につく。


今日は内容の濃い散歩だった。


カルピスの原液をそのまま飲んじゃった時くらい濃いぜ。


しかし、結局のところ、よく分からないままなんだよな、魅子って人。


美人なのに老女みたいな話し方だし。


巫女姿なのにプリンみたいな頭してるし。


いい年の大人なのにコスプレ衣装で深夜の神社に一人で来てるし。


幽霊見えるし。


僕に友達がいないの知ってるし。


まぁ、いい人なのは間違いないけどな。




家に着いて、僕は大事なことを忘れていたことに気づく。


「どら焼き代、請求するの忘れた」

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