あかつきエレファント 其ノ肆①
「買ってきましたよ」
神社跡に戻ると、彼女は本殿に凭れかかるようにして僕を待っていた。
彼女に隠れているので本殿の全容は見えないけれど、木造のそれは端々が明らかに朽ちている。
彼女の体重で崩壊するのではないかと、僕は少し心配になる。
ちなみに、少ししか心配していないのは、女性は軽いから大丈夫だろうと高を括っているからではなく、万一崩壊してしまっても僕のせいではないから、である。
要は、当事者ではなく、傍観者だから。
「おぉ、大儀じゃ大儀じゃ」
僕が渡した袋を受け取った彼女は幼女のように、笑顔で袋の中に手を突っ込み、お目当てのどら焼きを取り出した。
封を切ったそばからパクつき、満面の笑みを浮かべる。
「美味! 美味じゃの!」
幸せそうにどら焼きを食べる彼女。
その幸せそうな顔を見ていると――まぁ、買ってきて良かったとは思うかな。
「貴様も食うがよい。ほれ」
彼女は袋から取り出したどら焼きを、僕に差し出す。
「ありがとうございます」
僕が受け取ると、彼女はそそくさと二つ目を取り出して、封を切った。
僕も一つは食べようと思っていたし、一人一つだと彼女に文句を言われるかもしれないと思って、陳列棚に置いてあった四つ全部買ってきたのだけれど、正解だったな。
「ほほほへ、ひはは」
「食べてから喋ってください。何を言っているのか、さっぱり分かりません」
「ほーはお」
ゴクン、と彼女の喉から嚥下する音が聞こえた。
どんだけ頬張ってやがったんだよ。
「ところで貴様、名は何というのじゃ?」
僕もどら焼きを食べていたところだったので、飲み込んでから口を開いた。
当然、嚥下する音は鳴らない。
「古門暁です。あなたの名前も教えてもらっていいですか?」
「断る!」
なんでだよ。
『人に名前を訊ねる時は、まず自分から』って教わらなかったのかよ。
せめて、教えてもらったら答えろよ。
「はは、冗談じゃよ、冗談」
またしても軽快に、彼女は笑った。
「儂は、五百城魅子じゃ。良い名じゃと思わんか? 魅力のある子じゃぞ? 儂にぴったりじゃ」
気持ちがいいほどの自画自賛だけれど、顔は整っているし、スタイルもいいわけで、まぁ、大胸――概ね彼女の言う通りではある。
「あの、五百城さん。一つ訊いてもいいですか?」
「良いぞ。なんじゃ?」
「五百城さんは、霊とかが見えるんですよね?」
「見えるぞ」
「ということは、霊媒師とか、そういう仕事をされているということですか?」
「それは二つ目の質問じゃから答えられんの」
あぁ、めんどくさい人だな。
でも割とこういう人、いるよな。
マジメンディー!
「まぁ良い。今日は初回ならぬ初会じゃしの、特典として答えてやろう。霊媒師かと言われたら違うんじゃが、説明するのも面倒じゃし、それで良いわ」
霊媒師じゃないのか。
じゃあ何なんだ、とは思わなくもないけれど、霊媒師に近い仕事をしているのだろうことは分かったし、まぁいいか。
他にも訊きたいことがたくさんあるんだけどなー。
五百城さんの独特な喋り方とか。
僕に憑いているらしい霊(?)のこととか。
五百城さんの胸は何カップなのかとか。
けれど、さっきの感じだと答えてくれそうにないよな。
最初に『一つ』って限定したのが痛いな、ミスっちまったぜ。
「さて、腹も膨れたことじゃし、そろそろお開きにするかの」
「五百城さん」
「なんじゃ?」
「僕の霊のことは教えてくれないんですか?」
「そう急かすな。がっつく男は嫌われるぞ。おいおい教えてやるから、安心せい」
やっぱり僕は生殺しにされるらしい……。




