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禍い物  作者: 青野 乃蒼
あかつきエレファント

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5/11

あかつきエレファント 其ノ參②

「ふんっ」


 彼女が鼻で笑った。


「甲斐性のない男じゃの。どうせ、儂のナイスバディに見蕩れて興奮しとったんじゃろ?」


「なっ!」


「なんじゃ? 違うのか?」


「違います!」


「じゃあ、こっちかの?」


彼女は、はだけて谷間がくっきり見えてしまっている胸を、手でぐいっと持ち上げる。


いやはや、いいものをお持ちのようで。

見た目に違わぬ重量感を感じさせる。


「ち、違います」


「乳がいます?」


「ちげーよ! どもっただけだよ、乳なんて言ってねーよ!」


「そうか。それはすまんかったの。青年というものは皆等しく、女性と話す時は目ではなく胸を見て話すくらい、胸が好きなんじゃと思っておったが。そうではないようじゃな。勉強になったわ」



いえ、好きです。


みんな大好きです。


とは言えないのが残念でならない。

これも甲斐性がないということになるのだろうか。



「ところで、性年」


「待ってください。僕の人称代名詞が爽やかさを失って、いかがわしい感じになってます」


「おっと失礼。精年」


「いえ、まだ拭いきれてません」


「おぉ、そうじゃった、青年よ」


なんなんだよ、この人。


「貴様、つかれておるの」


「えぇ、まぁ、疲れてますね。色んな意味で」


『色んな』の中に、あなたも含まれるんですけどね!


「肩とか凝るじゃろ?」


「はい、ガチガチです」


「全身がダルくはないか?」


「ダルいですし、重いですね。なんかこう……上から押さえつけられているような感じです」


「そうじゃろの。ようそんなものを背負(しょ)っておって、潰されずに済んでおるわ、はは」


彼女は軽快に笑った。



背負っているとは、どういう意味だろう?


僕は今手ぶらで来ているのだけれど。


それになぜ彼女は、僕が疲れていること――約一年もの間、悩まされている体の不調――に気づいているのだろう?



「あの……」


「なんじゃ?」


「どういう意味でしょうか?」


彼女はきょとんとした目で首を傾げる。

その仕草は少女のようで、少し可愛かった。


「貴様、分からんのか? ()()()()おるんじゃよ」


「はい、疲れています。それは自分がよく分かっています。そこではなくてですね、僕が背負っているとかなんとか、仰いましたよね?」


「いや、そこじゃ。そこなんじゃよ」


「はい?」


「儂が言うておる『つかれる』は、()()()()()()()()()()()()での『()()()()』じゃ」



僕の頭の中で『つかれる』が変化している。


疲れる――ではなく――憑かれる。


憑かれる!


僕は霊的な何かに憑かれているのか!


噓だろ。


僕、そういう類は得意じゃないんだけど。



「……マジですか?」


「マジマジ、大マジ、マジ(まんじ)じゃ」



マジか……。


どこで憑いたんだろう。


何が憑いてるんだろう。


ゾンビみたいな感じなのは嫌だな、臭そうだし。


っていうかこの人、そういうのが見える人なんだな。


それなら、この服装もとんだ的外れってわけでもない気はする。


霊媒師とか、そういう仕事でもしているのだろうか。



「……えっと、ちなみに、どんな感じなのが憑いてるんですか?」


「それを答えてしもうたら、ネタバレになってしまうじゃろ。ミステリ小説の犯人を、読む前に聞かされるくらい興醒めじゃ」


ふんっ、と鼻息荒く彼女は腕を組んでふんぞり返る。



その例えは違う気がするけどな。

少なくとも僕は、答えを望んでいるわけだし。


今の僕の気持ちを例えるなら、体調不良で病院に行ったのに、診察後に医者から『病名は秘密だ』と言われたような気分だ。


そんな病院あるかよ。


藪医者め!



「そんなことより、エロ青年」


「あからさまになってんじゃねーか!」


っていうか、『そんなことより』ってなんだよ。


僕にとっちゃ重要案件だぜ? 


このまま放置されちまうのか?


なんてご無体な。


とんでもない生殺しだぜ。



「儂は小腹が空いたの。ちょっとひとっ走りして、どら焼きでも買ってきてくれんかの?」


「まさかのピンポイント! しかもどら焼きって、ドラえもんかよ……」


「第一希望はどら焼きじゃが、是が非でもどら焼きを食べたいというわけではない。ないならないで、別のもので良いぞ。饅頭とかの」


あんこが食べたいのな!

和服着てるから、イメージ通りではあるけども!


若干めんどくさいが、買ってこないことには話が進みそうにないし、仕方ないか。

幸いにして、財布は持ってきているし。



「……分かりました。行ってきますよ、コンビニ」



僕は来た道を引き返していく。


鳥居をくぐった辺りで、背後から彼女の声がする。


「青年! あったかいお茶も頼むぞ!」


注文の多いやつだな。帰ってきたら絶対に請求してやる。

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